第127回健康教室特別開催-健康企業宣言Step1-銀の認定にむけた勉強会

講演①健康経営の実践

講師 山田友恵 氏(東中野保健センター 保健師)

2019年11月26日(火)、TJKプラザにおいて、第127回健康教室を開催しました。今回は、『健康企業宣言Step1 銀の認定にむけた勉強会』として、3部構成で講演を行いました。その模様をレポートします。

健康経営とは

健康経営とは、従業員の健康を重要な資源として、健康管理を経営的な視点から戦略的に実践すること、つまり会社として従業員の健康管理を積極的に推進していく経営スタイルをいいます。従業員の健康づくりに取り組むことは、単に医療費という経費の節減のみならず、生産性の向上・従業員の創造性の向上という組織の活性をもたらし、さらには企業イメージの向上やリスクマネジメントといった効果も期待できます。

≪健康経営のメリット≫

  • 生産性の向上(モチベーションアップ、欠勤率の低下、業務効率の向上、組織の活性化)
  • 負担軽減(休業補償等の支払い減少、健康保険料の負担抑制)
  • ブランディング(企業ブランド価値の向上、社内・社外へのイメージアップ、人材確保、採用)
  • リスクマネジメント(事故・不祥事の予防、労災発生の予防、安全配慮義務の履行)

健康経営の推進により、「会社説明に来る学生のほとんどが面接まで希望するようになった」「求人に対する応募者数が増加した」など、リクルーティングの成功エピソードも数多く聞かれています。人材不足が不安視されている今、これからの会社経営において、健康経営は欠かせない経営戦略になるといえるでしょう。

健康経営の実践 ①健康診断

従業員の健康をサポートするにはまず、従業員の今の健康状態を知ることが必要であり、そのために活用できるのが健康診断(以下、健診)です。そこで、健診を有効に活用するためのポイントを紹介します。

被扶養者も含む受診勧奨&環境整備で健診受診率100%を目指す

2018年度の被保険者の健診受診率は85.2%でした。一方、従業員のご家族(被扶養者)の受診率は42.5%となっており、被保険者の半分以下という結果でした。ご家族の健康は、ひいては従業員の健康にもつながりますので、今後はぜひ、従業員だけではなく、ご家族の受診勧奨もご一考ください。
健診受診率の向上には、受診しやすい環境を整備することも大切です。健診受診を就業扱いとすることはすでに多くの事業所で実践されていますが、このほか、団体予約制度を利用して従業員の予約の手間を省く、といった工夫をされている事業所もあります。このように、こまめな周知や受診勧奨、環境整備により、受診率100%を目指していただき、また、すでに100%を達成している事業所ではそれを維持していただければと思います。

健診結果を確実に把握し、再検査未受診を防ぐ

健診は受診したら終わりではなく、要再検査となった従業員に対しては、再度受診勧奨をしなければなりません。そのためには、従業員の健診結果を把握する必要があります。TJK直営健診センターでは、同意書など一定条件を満たせば、同一事業所に属する受診者の健診結果(定期健診項目)を一括して事業主に発行することが可能です。また、会社単位の取り組みとしては、健診結果の提出と引き換えに健診費用を支給することで健診結果を回収しやすくする工夫をされている事業所もあります。このように、より多くの健診結果を回収・把握し、必要に応じてこまめな受診勧奨を行っていただきたいと思います。
健診結果によっては、産業医や産業保健師との連携、業務内容の見直しなどが必要になるケースもあります。しかし、なかには産業医や産業保健師が在籍していない事業所もあります。そのような場合に活用していただきたいのが、「東京都産業保健総合支援センター」です。こちらには、産業医学、メンタルヘルス、労働衛生関連法令、保健指導など、産業保健活動にかかわる各分野のスペシャリストが相談員として在籍しており、産業医療職だけでなく、衛生管理者や人事労務担当者等からのさまざまな相談を受け付けています(無料)。相談方法も面談、電話、メール、FAXから選択できます。また、TJKには専門分野に精通した産業医を紹介する制度もあるので、詳しくはTJKのホームページでご確認ください。

会社全体の健康課題の整理・検討にTJKウエルネスレポートを活用

従業員一人ひとりの健診結果をもとに、会社全体の健康課題が把握できれば、全体に向けての効率的なアプローチができるようになります。そこで活用していただきたいのが、TJKが毎年発行している「TJKウエルネスレポート」です。「TJKウエルネスレポート」には、事業所ごとの医療費、健診受診率、生活習慣の傾向、各検査項目の判定別割合、喫煙率、ジェネリック医薬品使用率などを掲載しています。また、別冊の「TJKウエルネスレポート活用のための手引き」では、「TJKウエルネスレポート」の見方や健康課題に対してどのような対処をしたらよいか具体的な対策も掲載しているので、ぜひご活用ください。

特定保健指導を活用する

TJKでは、組合員の生活習慣の見直しや改善のお手伝いをするために、特定保健指導を実施しています。これは、面談によって一人ひとりの食生活や運動習慣などを細かく聞き、個別性を尊重した生活習慣の改善案を提案するというものです。しかも、1回だけで終わるのではなく、リスクの数に応じて継続し、プログラム終了まで寄り添った支援を行っています。
厚労省の調査では、特定保健指導により1年間で男性の約3割、女性の約4割がメタボを改善したという報告もあります。また、契約健診機関で健診受診された方で、当該施設で特定保健指導の実施がなければ、該当者には後日面談という形で特定保健指導を受けていただけるので、ぜひご活用いただき、生活習慣改善のきっかけにしてください。

健康経営の実践 ②生活習慣

健康経営にまつわるワードとして最近よく耳にするのが、プレゼンティーズムという言葉です。プレゼンティーズムとは、会社を休むほどではないが、出社しても体調が万全ではないため、最高のパフォーマンスが発揮できない状態をいいます。具体的には、風邪、頭痛、腰痛、花粉症、うつ病のほか、生活習慣病もその一つといわれています。健康経営においてはこのプレゼンティーズムを予防・改善していくことが重要であり、そのためには日々の生活習慣をサポートすることが大切です。では、具体的にどのような対策をとったらよいのかを紹介しましょう。

健康測定機器等を設置して日々の健康をチェック

日々の健康状態を気軽にチェックできるよう、体重計や血圧計、体温計などを社内に設置します。事務所内の一角や休憩スペースなど、従業員が利用しやすく、なおかつプライバシーにも配慮した場所に設置し、記録用紙なども一緒に置いておくとなおよいでしょう。

健康について話す機会が自然と増えるような環境づくり

雑談中でも健康について話す機会が増えるよう、事務所のキャビネット、階段やエレベーターなど移動経路上、喫煙スペースなど、目につきやすい場所に健康情報のポスターを掲示します。インフルエンザやノロウイルスなど、季節ごとの健康情報も盛り込むとよいでしょう。

健康的な食生活を提案

食生活で大切なのは、規則的なリズム(朝・昼・夜)で、栄養バランスのよいものを適量とる、ということです。具体的なポイントは、次のとおりです。

〈具体的な食事のポイント〉

  • 朝食に食べるとよいメニューは…おにぎり2個
    菓子パンは、高カロリーで脂質・糖質が多いためNG。
  • 夕食におすすめなのは…脂質の少ない鶏肉や魚+野菜(単品ではなく定食になるとより良い)
    単品メニューや揚げ物はできるだけ避ける。
  • 夕食は21時までに食べ終える
    脂肪合成を促進する「BMAL 1」というホルモンの影響により、22時から深夜2時に食べると脂肪になりやすい。逆に、朝6時から16時はBMAL 1の活動が低下するため、食べても脂肪になりにくい。
  • 残業などで夕食が遅くなるときは、夕食を2回に分けて食べる分食を
    夕方、おにぎりやサンドイッチなどの炭水化物をとり、帰宅後は脂質の少ないたんぱく質や野菜中心のメニューにし、腹5分目にとどめるのが肥満防止のコツ。
  • 適正な飲酒量は、純アルコール量で20g
    生ビールならジョッキ(500mL)1杯、赤ワインならグラス(180mL)1杯。
  • 間食は中身とタイミングを選んで「攻めの間食」を!
    食べる時間帯によって中身を選ぶことで、体への影響をマイナスではなくプラスに変えることができる。
午前中:プロテインバー、ナッツ類、乳製品(ヨーグルト、チーズなど)
通勤などで活動量が多いので、たんぱく質や脂溶性のものがよい。
夕方:おからクッキー、昆布、スルメ、フルーツ(カット・ドライ)
食物繊維が豊富なものを。夕食でとる糖質の吸収を緩やかにして、血糖値の上昇を抑える。
夕食後:豆製品、野菜や海草のスープ
睡眠を妨害しないよう、脂質が少なく、消化のよいものを選ぶ。
  • 飲み物はできるだけ無糖のものを選ぶ
    清涼飲料水やスポーツドリンク、缶コーヒー、飲むヨーグルト、乳酸菌飲料、野菜ジュースなどは糖質が多いため、頻度は少なめにする。

運動を習慣化する

最近、長時間座り続けることで健康リスクが高まる、という研究データが注目されています。世界の主要20カ国の比較では、日本人は1日に座っている時間がもっとも長い、という結果が出ています。とくに、ICT業界はデスクワークが中心で、勤務時間の9割以上は座ったままである、という調査報告もあります。
座っている時間が長いと全身の血流が滞るだけでなく、エネルギーの代謝も低下します。また、糖の代謝や脂肪の分解に関わる機能が低下し、肥満や糖尿病のリスクも高くなります。そのため、デスクワーク中心のICT企業の人間こそ、意識的に体を動かすことが大切です。

〈具体的な運動のポイント〉

  • 仕事の合間にストレッチや体操を行う
    定期的に体を動かすことで、脳や全身の血流が改善。気分がリフレッシュして、再度集中力が発揮できるため、作業効率もアップする。
  • 1日8000歩を目標に歩く
    1日8000歩、そのうち20分は早歩きをすると生活習慣病予防に有効、という研究データがある。ふだんの通勤時に意識して早歩きするとよい。

日々の声がけや職場の環境づくりでメンタルヘルスケアを

メンタルヘルス推進で重要なのは、ふだんの同僚のちょっとした変化に気づくこと、そして、相談しやすい・気づきやすい雰囲気や環境をつくることです。たとえば、朝あいさつするときに、「ちょっと顔色がよくないけど大丈夫?」とひと言つけ加えるだけで、「実は最近、残業続きで…」と、体調の変化を話すきっかけになるかもしれません。このように、何気ない会話の中で相談しやすい環境を意識的につくることが大切です。

健康経営の実践 ③禁煙

東京都の条例でも受動喫煙防止への取り組みが始動していますが、まずはタバコによる健康被害について、ポスターやメールマガジン、イントラネットなどを通じて今一度周知することが大切です。また、喫煙所を設ける、社内を全面禁煙にするといった分煙対策も必要です。さらに、事業所としては、禁煙される方が少しでも前向きに取り組めるようなサポートをしていただけたら、と思います。

〈具体的な禁煙サポート〉

  • 禁煙外来の利用
    8~12週間の禁煙治療を受けた場合の自己負担額(3割負担として)は、タバコ代の約半分。タバコ代よりも費用がかからず、医師のサポートを受けながら禁煙することができる。
  • 禁煙アプリを活用
    「禁煙ウォッチ」「禁煙アシスタント」など、無料のスマホアプリを活用する。タバコの金額や1日あたりの本数を設定すれば、禁煙期間の継続に応じていくら節約、何本節煙できているかを表示。ツイッターでアプリ名を検索すると、利用者の声を読むことができ、みんなでがんばっている気分になれる。
    ※病院の外来治療とスマホアプリを併用した治療法も、近い将来の実用化に向けて動いている。

健康経営について不明な点や不安がある場合には、「健康経営アドバイザー派遣制度」を利用するのもおすすめです。健康経営についての研修を修了し、企業経営、関連法規、保健事業、先進事例などについて一定の知識を有していると認められた専門家(中小企業診断士、社会保険労務士、保健師、労働衛生コンサルタント、健康運動指導士など)が各事業所へ出向き、丁寧なヒアリングにより、健康づくりの取り組みだけでなく、「銀の認定」や「健康経営優良法人」取得もサポートする、というサービスです。こちらは無料で利用できるので、ぜひご検討ください。

そのほか、下記にあげた各団体のホームページには、健康経営に活用できるツールや情報などが数多く掲載されているので、ぜひ健康経営の推進にお役立てください。

〈参考〉

>> 講演②「取り組み事例ご紹介(2社)」へ進む

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