健康教室バックナンバー

健康教室2日目の前半は、TJK保健師による講演が行われ、健康経営・健康企業宣言への取り組みに当たって、職場で実践できる具体的な対策法などが紹介されました。また、参加者のみなさんは3~4名のグループに分かれ、「健康で元気な会社とは?」「どんな方法で健康診断の受診勧奨や健診周知を実施しているか?」「体重計や血圧計などを社内に設置しているか? 利用状況は?」といったテーマに沿って話し合うなど、グループワークも交えながら講演が進められました。

講師 山田友恵 氏(東中野保健センター 保健師)

健康経営とは

健康経営とは、従業員の健康を重要な資源として、健康管理を経営的な視点から戦略的に実践すること。つまり、会社として従業員の健康管理を積極的に推進していく経営スタイルをいいます。従業員の健康づくりに取り組むことは、単に医療費という経費の削減のみならず、生産性の向上・従業員の創造性の向上という組織の活性をもたらし、さらには企業イメージの向上やリスクマネジメントといった効果も期待できます。
 とくに、IT業界における生産コストの大半は「ヒト=従業員」です。団塊世代の約1千万人が後期高齢者となる2025年問題も含め、人手不足が不安視されるこれからの会社経営において、健康経営は欠かせない経営戦略といえるでしょう。
 そこで、健康経営の実践方法として、①健康診断、②生活習慣、③禁煙、という3つのテーマに沿って、具体的な方法を紹介します。

健康経営の実践 ①健康診断

従業員の健康をサポートするには、従業員の健康課題を知る必要があり、そのために活用できるのが健康診断です。では、どうしたら健康診断を有効に活用できるのか、そのポイントをみてみましょう。

●健診の必要性の周知と受診しやすい環境整備で健診受診率100%に
平成29年度の被保険者の健診受診率は84.5%。これに対し、被扶養者の受診率は43.7%で、被保険者の約半分しか受診していません。健診の必要性の周知を徹底し、被扶養者の受診率を上げることが大きな課題といえます。
 また、団体予約制度を利用して従業員の負担を軽減するなど、受診しやすい環境を整備することも大切です。

●健診結果を把握し、再検が必要な従業員への受診を勧奨
TJK直営健診センターでは、同意書など一定条件を満たせば、同一事業所に属する受診者の健診結果(定期健診項目)を一括して事業主に発行することも可能です。一部では、健診結果の提出と引き換えに健診費用を支給することで、会社側が確実に健診結果を把握する、という工夫をしている事業所もあります。
 このように、従業員の健診結果を事業所が正確に把握し、精検・再検該当者に対する受診勧奨や、その後のフォローを行うことが大切です。
社内に産業医や産業保健師がいない場合などに活用していただきたいのが、「東京都産業保健総合支援センター」です。こちらには、産業医学、メンタルヘルス、労働衛生関連法令、保健指導など、産業保健活動にかかわる各分野のスペシャリストが相談員として在籍しており、産業医療職だけでなく、衛生管理者や人事労務担当者等からのさまざまな相談を受け付けています(無料)。相談方法も面談、電話、メール、FAXから選択できます。また、TJKには専門分野に精通した産業医を紹介する制度もあるので、詳しくはTJKのホームページでご確認ください。

●ウエルネスレポートを活用し、職場の健康課題を整理・検討する
TJKで毎年発行している「ウエルネスレポート」には、事業所ごとの医療費、健診受診率、生活習慣の傾向、各検査項目の判定別割合、喫煙率、ジェネリック医薬品利用率などを掲載しています。また、別冊の「ウエルネスレポート活用のための手引き」では、健康課題に対してどのような対処をしたらよいか具体的な対策も掲載しているので、職場の健康課題の整理・検討にご活用ください。

●特定保健指導の利用促進
TJKでは、次回の健診に向けての生活習慣改善サポートとして、特定保健指導を実施しています。これは、食生活や運動習慣などを聞き取り、個別性を尊重した生活習慣改善の計画を提案するというものです。厚労省の調査では、特定保健指導により1年間で男性の約3割、女性の約4割がメタボを改善したという報告もあるので、該当者にはぜひ利用を促進してください。

健康経営の実践 ②生活習慣

 健康経営において、取り組むべき重要なターゲットとしてあげられているのがプレゼンティーイズムです。プレゼンティーイズムとは、会社を休むほどではないが、出社しても体調が万全ではなく、最高のパフォーマンスが発揮できない状態のことで、かぜや腰痛、肩こり、頭痛、花粉症、寝不足、抑うつ、といった症状がこれにあたります。このプレゼンティーイズムを予防・改善していくことが、健康経営においては非常に重要です。そのためには、年1回の健診に加えて、日々の生活習慣をサポートすることが大切です。その具体策をいくつかあげてみましょう。

●健康測定機器等を設置
体重計、血圧計、体温計を社内に設置し、日常の健康状態を気軽にチェックできるようにします。設置場所は、事務所内の一角や休憩ルームなど。記録用紙を一緒に設置しておくとなおよいでしょう。ただし、プライバシーに配慮した空間づくりが必要です。

●健康について話し合える環境づくり
事務所のキャビネット、階段やエレベーターなど移動経路上、喫煙スペースなど、目につく場所に健康情報のポスターを掲示することで、雑談中にも健康について話すきっかけをつくります。インフルエンザやノロウイルスなど、季節的なテーマも盛り込みながら、健康情報や知識を身につけられる場を設けることも大切です。

●食生活
健康的な食生活の基本は、規則的なリズム(朝・昼・夜)で、栄養バランスのよいものを適量とる、ということです。具体的なポイントを以下にまとめたので、参考にしてください。

  • 朝食におすすめなのは…おにぎり2個
    菓子パンは、高カロリーで脂質・糖質が多いためNG。
  • 間食におすすめなのは…ミックスナッツ(塩分無添加でローストしたもの)
    食物繊維やビタミンが豊富で、不飽和脂肪酸を含むため、脂肪燃焼や脂肪蓄積予防の効果が期待できる。ただし、食べすぎると脂質のとりすぎになるので、1日25gが適量。
  • 夕食におすすめなのは…脂質の少ない鶏肉や魚
    単品メニューや揚げ物はできるだけ避ける。
  • 夕食は21までに食べ終える。間食をするなら14~15時に
    脂肪合成を促進する「BMAL 1」というホルモンの影響により、22時から深夜2時に食べると脂肪になりやすい。逆に、14~15時はもっとも脂肪になりにくいので、間食をするならこの時間帯がよい。
  • 残業などで夕食が遅くなるときは、夕食を2回に分けて食べる分食を
    夕方、おにぎりやサンドイッチなどの炭水化物をとり、帰宅後は脂質の少ないたんぱく質や野菜中心のメニューにし、腹5分目にとどめるのが肥満防止のコツ。
  • 飲酒の適正量は、純アルコール量で20g
    生ビールならジョッキ(500mL)1杯、赤ワインならグラス(180mL)1杯。
  • 社内の自動販売機の商品を見直し(清涼飲料水や加糖飲料を減らし、お茶、お水、無糖飲料をふやす)
  • 仕出し弁当をヘルシー弁当に変更
  • 近所のコンビニの商品を栄養士がカロリー計算し、おすすめの組み合わせを掲示

●運動習慣
最近、長時間座り続けることは健康リスクがある、という研究データが注目を浴びています。世界の主要20カ国を比較した場合、1日に座っている時間は日本人がもっとも長い、という結果が出ています。とくに、IT業界はデスクワークが中心で、勤務時間の9割以上は座ったまま、という方も少なくありません。
座っている時間が長いと全身の血流が滞るだけでなく、エネルギーの代謝も低下します。そうした健康リスクを負わないためにも、デスクワークが中心の人ほど、意識的に体を動かすことが大切です。

  • 仕事の合間にストレッチや体操を行う
    定期的に体を動かすことで、脳や全身の血流が改善。気分がリフレッシュして、再度集中力が発揮できるため、作業効率もアップする。
  • 1日8,000歩を目標に歩く
    1日8,000歩、そのうち20分は早歩きをすると、生活習慣病予防に有効、という研究データがある。ふだんの通勤時に意識して早歩きするとよい。
  • 社内にぶら下がり健康器やストレッチ器具を設置
  • 週1回、全従業員が参加する会議の際に、ラジオ体操やストレッチを実施
  • 平日の朝、ウォーキングイベントを開催。帰社後、朝食を提供することで、朝食の欠食という課題もクリア
  • 「歩こうキャンペーン」を開催し、正しい歩き方も紹介する
  • スポーツ大会を開催

●メンタルヘルス
 メンタルヘルス推進で大事なのは、従業員のふだんのちょっとした変化に気づくことと、相談しやすい・気づきやすい雰囲気や環境づくりです。たとえば、朝あいさつするときに、「ちょっと顔色悪くない?」とひと言つけ加えるだけで、「実はちょっと最近、残業続きで…」と、体調の変化を話すきっかけになるかもしれません。そういう雰囲気や環境を意識的につくることが大切です。

  • 「にこにこカレンダー」でコンディションを可視化
    従業員は、出社時と退社時のコンディションを5段階で評価し、該当するシールをカレンダーに張る。コンディションを可視化することで、職場のメンバーの変化に気づくきっかけにもなり、調子が悪そうな社員には管理職からすすんで声がけを行っている。

健康経営の実践 ③禁煙

まず、タバコによる健康被害を今一度周知することが大切であり、ポスターやメールマガジン、イントラネットを活用している事業所もあるようです。分煙対策としては、喫煙所を設けたり、社内を全面禁煙にしたり、といった対応がみられます。事業所としては、禁煙される方が少しでも前向きに取り組めるようなサポートをしていただけたら、と思います。

  • 禁煙外来の利用
    8~12週間の禁煙治療を受けた場合の自己負担額は、タバコ代の約半分。タバコ代よりも費用がかからず、医師のサポートを受けながら禁煙することができる。
  • 禁煙アプリを活用
    「禁煙ウォッチ」「禁煙アシスタント」など、無料のスマホアプリを活用する。タバコの金額や1日あたりの本数を設定すれば、禁煙期間の継続に応じていくら節約、何本節煙できているかを表示。ツイッターでアプリ名を検索すると、利用者の声を読むことができ、みんなでがんばっている気分になれる。

TJKの取り組み

健康経営における課題として、「人員がない」「予算がない」「何をしたらよいか不明」といった声が聞かれます。そうした事業所様をサポートするために、TJKではさまざまな取り組みを行っています。その一例を紹介します。

  • ①スマホウォーキング
    スマホアプリを利用して2カ月間の歩数を計測し、チーム対抗で平均歩数を競う。健康増進への動機づけをサポート。
  • ②らくらく禁煙コンテスト
    通信制の6週間禁煙プログラム。
  • ③メンタル相談室
    メンタルヘルスに関することを専門のカウンセラーに相談できる。相談方法は、メール、電話、面接から選択可。自身のことはもちろん、同僚や部下、家族のことも相談できる。
  • ④各種セミナーの開催
    新入社員から経営者層、人事総務担当者から一般職員まで、入社時期、担当職務に沿った細かいプログラムを用意。
  • ⑤ウエルネスレポート
    医療費、健診受診率、生活習慣の傾向、各検査項目の判定別割合、喫煙率、ジェネリック医薬品利用率などを掲載。

健康経営について不明な点や不安がある場合には、「健康経営アドバイザー派遣制度」を利用するのもおすすめです。健康経営についての研修を修了し、企業経営、関連法規、保健事業、先進事例などについて一定の知識を有していると認められた専門家(中小企業診断士、社会保険労務士、保健師、労働衛生コンサルタント、健康運動指導士など)が各事業所へ出向き、丁寧なヒアリングにより、健康づくりの取り組みだけでなく、「銀の認定」や「健康経営有料法人」取得もサポートする、というサービスです。こちらは無料で利用できるので、ぜひご検討ください。
 そのほか、下記にあげた各団体のホームページには、健康経営に活用できるツールや情報などが数多く掲載されているので、ぜひ健康経営の推進にお役立てください。

〈参考〉
厚生労働省
一般社団法人 東京都総合組合保健振興協会
東京商工会議所
独立行政法人 労働者健康安全機構 東京都産業保健総合支援センター
TJK(東京情報サービス産業健康保険組合)

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