平成27年11月10日(火)~11日(水)、直営保養所「TJKリゾート金谷城」において、第115回健康教室を開催しました。今回は宿泊型で、1日目はTJKメンタルヘルスセンター所長の山﨑友丈先生を講師にお招きし、「ストレスチェック制度の導入・実施のポイント」についてご講演いただきました。2日目はTJKの保健師による「TJKデータヘルス計画の取り組み」についての講演につづき、再び山﨑先生より『「健康経営」にどう向き合うか』というテーマでご講演いただきました。その様子をレポートします。

第二部

「『健康経営』にどう向き合うか」

講師 山﨑友丈(TJKメンタルヘルスセンター所長)

健康管理と経営との密接な関係

私の著書『メンタルヘルス経営学』の中に、健康経営の基本的な考えに通じる記述がありますので、その一部を抜粋してご紹介します。

(以下、『メンタルヘルス経営学』より)
人は組織という器に入るのではなくて、組織の一つの細胞としてその一部になる。細胞の一つひとつが役割どおりにしっかり機能すれば、その組織である機関は快調に機能できる。
─(中略)─
 メンタルヘルスの延長に組織活性化というテーマが必要になってくるのは、こうした人と組織の関係があるからだ。組織の活性度が上がることで、コミュニケーション、人間関係が全般的に向上すれば、人が不調に陥る原因も少なくなり、その一方で、不調者の早期発見、早期対応の能力も高まるから、メンタルトラブルのリスクを下げることができるのである。

仕事の目的もはっきりせず、重要な情報も支援も得られない、そのような状態で孤立した仕事をし、もし顧客や上司との関係で多くの責務を背負わざるを得ない状況になるとすれば、仕事ははけず、ストレスはかさみ、病にいたってしまうかもしれない。この組織のなかでは自分の成長や成功の姿も見えない。自分の将来に希望や期待を抱くこともできにくい。
 そして、組織全体には不安や不満が広がり、モチベーションが低下する。一人ひとりが十分に力を発揮することなく、その活動は停滞する。がんばろうにも必要な情報や支援も得られない。その組織の状態は、凝り固まって動きが悪くなった手足や詰まった血管のようなものである。
組織がこういう状態であれば、そこから生まれる商品やサービスが高いクオリティを保ち続けることも考えにくい。仕事は迷走したり停滞したりして、ミスやエラーも増える。顧客に対するコミュニケーションや対応の質も劣化する。一時的に売り上げが上がっても、サポートは機能せず、顧客が離れていく。結果として業績は目標だけが空回りし、低迷することになる。
組織の不健康はその組織を構成する人々の健康度、組織が生み出すサービスや商品の健康度(=品質)にこのように密接に結びついてくる。

これがまさに健康経営の基本であり、うつ病というのは組織がつくるものだと私は考えています。ですから、組織をどう構築していくか、ということが今、非常に問われています。
企業としてのビジョンや理念、目標、価値観などがしっかりしているかどうか、これが健康経営の条件です。そして、健康管理は経営に密接に関係するものである、ということをぜひ自覚していただきたいと思います。

健康経営とは、「健康」を企業の中心的な経営課題の一つとして長期的視点から取り組むことで、「従業員の生産性向上」「企業価値の向上」「医療費の適正化」を同時に実現することを目指す、というものです。つまり、いかに病人を作らない組織にしていくか、ということが基本となっています。
 これはアメリカの企業の例ですが、健康投資1ドルに対するリターンが3ドルになる、という調査結果があります[図(1)]。つまり、健康に投資することで、これだけの大きな価値を得ることができるのです。

図(1) 健康への投資の効果

近年、企業にとってのリスクとして「プレゼンティーズム」というものが注目されています[図(2)]。プレゼンティーズムとは、心身の不調により、就業していても十分な能力や生産性を発揮できない状態をいいます。
従来は、社員の欠勤や休職が企業にとって大きな損失になると考えられていました。ところが、実は、体調不良やメンタル的な問題を抱えながら働いているほうが、はるかに大きなリスクとなることが明らかになったのです。とくに、メンタル不調によるプレゼンティーズムの影響が非常に大きいのです。
 つまり、メンタル疾患者は早めに休職させて、きちんと回復させたほうがリスクは少ない、という考え方に変わってきているのです。

図(2) 新たに注目される企業リスク「プレゼンティーム」とは

「日本再興戦略」(平成25年6月に閣議決定)にも盛り込まれている「データヘルス計画」。これにいち早く取り組んできたのが、デンソー健康保険組合です。同健保の調査によると、病気で欠勤した従業員による生産性損失は、年間8億6千万円。これに対し、腰痛や不眠など軽症不健康による生産性損失は、年間200億円にのぼりました。このことからも、いかにプレゼンティーズムによる損失が大きいかがわかります。

従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践している企業を選定する「健康経営銘柄」[図(3)]、健康経営に取り組んだ企業には安い金利で融資をする「健康経営格付」[図(4)]の導入などからも、健康経営への注目度の高さがうかがえます。

図(3) 健康経営銘柄

●平成26年度選定企業
アサヒグループホールディングス/東レ/花王/ロート製薬/東燃ゼネラル石油/ブリヂストン/TOTO/神戸製鋼所/コニカミノルタ/川崎重工業/テルモ/アシックス/広島ガス/東京急行電鉄/日本航空/SCSK/丸紅/ローソン/三菱UFJフィナンシャル・グループ/大和証券グループ本社/第一生命保険/リングアンドモチベーション

図(4) 健康経営格付

健康経営を促進する動きは、大手企業のみならず、中小企業にも展開されています。主なものとして、健康経営ハンドブックの策定・公表、「健康経営アドバイザー制度」の認定制度創設、「健康経営優良企業認定制度」の創設、などがあげられます[図(5)]。

図(5) 中小企業への展開

個々人の自覚と実行が不可欠

健康経営は、具体的にどのように進めていけばよいのでしょうか。まずは、健康経営導入に向けての戦略や施策を計画し、次に、健康経営を推進することをトップが宣言します。そして、組織全体で実施・展開をし、個々人に浸透させる。こうしたPDCAサイクルを回して継続的に進めることが必要です[図(6)]。

図(6) 「健康経営」の進め方

健康というのは、各自が自分で守らなければならないものです。健康経営を実現するためには、そのことを社員一人ひとりが自覚しなければなりません。
私が大好きな言葉に、「義を見てせざるは、勇なきなり」というものがあります。これは、「自分がなすべきことを知りながら、行動に移さない人間は勇気がない」という意味です。
 このことは、健康診断にもあてはまります。健康管理をすることは、ワーカーの義務です。それを知っていながら怠るということは、勇気がないということです。
私はこのことを、とくに役員の方々に申し上げたいのです。なぜなら、役職が上であればあるほど、その人の健康は経営の根幹に影響するからです。ですから、まずはトップの方からそうした意識を持っていただきたいのです。

そして、フィジカルのみならず、メンタルまでケアすることができて初めて、健康経営は成り立ちます。ですから、メンタル対策を健康経営の一環として位置づけ、心身一体という考えのもとで取り組むことが、今後ますます重要になってきます[図(7)]。

図(7) 「健康経営」の進め方

WHOでは、精神的健康(Mental Health)を次のように定義しています。
 「個人が自分の能力を発揮でき、
日常のストレスに対処でき、
生産性が高い状態で働くことができ、
 コミュニティに貢献できる良い状態」を指し、
単に精神的な疾患がないことを意味しない。

そして、健康経営を実現することで、
・ 健康リスクによる損失が減少する
・ 医療費が軽減する
・ 生産性の向上
・ 人が会社に定着するようになる
・ 企業のイメージが上がるため、社会的な評価を受けるようになる
・ リクルート競争において優位化がおこり、採用がしやすくなる
・ 融資に優遇される
といった効果が期待できます。

健康は、企業にとって大きなメリットがあるだけでなく、個人にとっても自己実現や日々を楽しく生活するうえで欠かすことのできないものです。
 ですから、みなさんにも心身ともに本当の意味での健康を目指していただき、個人、そして企業の健康を実現していただきたいと思います。

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