平成24年10月18日(木)~19日(金)、直営保養所「TJK箱根の森」において、第106回健康教室を開催しました。今回は宿泊型健康教室で、1日目は第一部としてフィットネスアドバイザーの小川りょう氏を講師にお招きし、近年話題となっているメタボリックシンドローム「内臓脂肪症候群」とロコモティブシンドローム「運動器症候群」について、簡単なストレッチなどを交えて講演をしていただきました。2日目は第二部として、TJK保健師および管理栄養士による講義が行われました。その様子をレポートします。

第一部「男のメタボと女のロコモ ~内臓脂肪症候群と運動器症候群~」

●講師 小川りょう 氏

フィットネスアドバイザー/健康運動指導士
外資系ホテルフィットネストレーナーを経て、2000年独立。「健康増進事業フィットネスサポートシステムズ」設立、代表を務める。その豊富な経験と確かな指導力で、カルチャースクール講師やパーソナルトレーナー、講演・セミナー講師、ライターとして活動。2013年春より、早稲田大学大学院においてスポーツ科学の研究にも携わる。

公式ホームページ http://squatsuisui.com

長寿高齢国日本の現状

日本は世界一の長寿国であると同時に、超高齢化社会に突入しています
日本人の平均寿命は、男性が約80歳、女性が約86歳。男女合わせた平均では、83歳です。一方、世界の平均寿命は68歳ですから、実に15年の開きがあります。なぜ、日本人がこんなにも長寿になったのかというと、その理由の一つは、栄養面がよくなったこと。そしてもう一つは、衛生面が改善されたこと。この二つの理由により、長寿になったといわれています。
一方、昨今のキーワードともなっている「健康寿命」。これは、介護年数を含まない期間のことで、男性は70歳、女性は73歳です。平均寿命との差をみてみると、男性は10歳、女性は13歳となり、つまり、それだけの期間、要支援・要介護になるということです。
長寿大国といわれている日本ですが、またの名を「寝たきり大国日本」「骨折大国日本」ともいわれています。食生活が豊かになり、衛生面が改善された反面、過食や運動不足が増えてきました。一見、プラスとも思える生活環境の変化が、実は寝たきりや要介護の一因ともなってしまったわけです。

寝たきりや要介護の原因は、男性では生活習慣病によるものが多くみられます。脳血管疾患が4割で、そのほか高血圧、糖尿病などがあげられます。
一方、女性の場合は、筋・骨格系によるものが多いのが特徴です。衰弱や骨折・転倒などにより、行動範囲がだんだん狭くなって、寝たきりになってしまうというケースです。
 この寿命と健康寿命の開きをどう狭めていくかというのが、今の日本の課題といえます。日々の生活習慣の積み重ねが、その人の人生をつくりあげていくのであり、健康寿命は自分の努力次第で勝ち取ることができるものです。気力・体力ともに充実して、自立した生活を送れる期間を延ばすためには、意識と努力が必要です。そのためにも、今のうちから健康づくりに何かしら気をつけた生活を送ることが大切です。

メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)は、過食や運動不足により、内臓に脂肪が蓄積し、動脈を硬化させ、生活習慣病を引き起こす状態です。メタボリックシンドロームは、予備群まで含めると、男性で2人に1人、女性で5人に1人の割合といわれており、圧倒的に男性に多いのが特徴です。
 メタボリックシンドローム自体は、実はそれほど恐れる必要はありません。本当に怖いのは、メタボリックシンドロームを放置しておくことによって引き起こされる動脈硬化です。内臓脂肪が蓄積すると、確実に血管も汚れていると思ってください。内臓に脂肪がたまると、血管も詰まり始め、それが三大疾患であるがん、脳卒中、心臓病といった生活習慣病へと移行していくのです。
 メタボリックシンドロームは、ある意味、体からのサインなので、メタボリックシンドロームになった時点でなんらかの手を打つことが大切です。
実は、皮下脂肪と違って、内臓脂肪はすごく落ちやすいのです。なぜなら、体の深部にあるため、体をちょっと動かして体温を上げると、血の巡りがよくなり、ジワーッと燃えていくのです。運動だけでなく、食事をちょっと見直すだけでも、内臓脂肪は簡単に落とすことができます。
 あるメタボリックシンドロームの人に、週2回、30分の早歩きをしてもらい、3ヵ月後に腹部のMRIをみたところ、内臓脂肪の量が標準値を下回るほどに減っていた、という研究結果もあります。
 メタボリックシンドロームは、放っておけば生活習慣病につながりますが、食事や運動にちょっと気をつけるだけでも改善できるということが大きなポイントです。

一方、女性に多くみられるのがロコモティブシンドローム(運動器症候群)です。神経も含め、筋肉や関節、腱など、体を動かすものすべてを運動器と呼びます。運動器のどこかしらにトラブルがおこると、そこをかばって別の場所が痛くなり、さらにそこをかばってまた別のところが痛くなる、という悪いサイクルに陥ります。痛みがあると次第に体を動かさなくなり、筋力は低下し、骨も衰え、やがて寝たきりになってしまいます。
筋肉や平衡感覚は、使っていないと年齢とともに衰えます。そのため、何もないところでつまずいたり、転んだりしやすくなるのです。特に女性の場合、関節疾患、骨折、転倒により要介護・要支援になる人が非常に多くみられます。
次の「7つのロコチェック」の中で、思いあたるものはありますか? もし、1つでもあてはまれば、ロコモティブシンドローム予備群になります。

7つのロコチェック

  家のなかでつまずいたり、滑ったりする
  15分くらい続けて歩けない
  横断歩道を青信号で渡りきれない
  階段を上るのに手すりが必要である
  片脚立ちで靴下がはけない
  2kg程度の買い物をして持ち帰るのが困難である(1リットルの牛乳パック2個程度)
  家のやや重い仕事が困難である(掃除機の使用、布団の上げ下ろしなど)

もっとも骨折しやすいのは大腿骨頸部で、ここを骨折すると歩けなくなってしまいます。足先だけでペタペタと歩くような歩き方だと、大腿骨がほとんど使われないので、弱ってしまいます。
本来の正しい歩き方をしていると、もものつけ根をしっかり開くので、大腿骨も鍛えられ、万一、転んだとしても骨折を免れたり、脱臼程度ですんだりします。ですから、ふだんから正しい歩き方を意識して、大腿骨を動かしておくことが大切です。
大腿骨を鍛えるには、スクワットも有効です。ただし、間違ったやり方ではひざを痛めるだけなので、もものつけ根をちゃんと後ろに引いて、正しいフォームで行うことが大切です。正しいフォームで行うと、もも、ももの後ろ、ふくらはぎ、すね、お尻、脊柱起立筋までまんべんなく鍛えられます。5回を1セットとして、朝と晩に1セットずつ行うか、1日1回1分間行うようにしてみてください。
 また、目を開けて1分間片脚立ちをするのも、筋力低下や寝たきりを予防するのに有効な運動です。左右で1セット、朝・昼・晩とできれば理想ですが、無理せず、気がついたときに1セット行うだけでも、いい運動になります。
正しい歩き方、スクワットのやり方は、以下を参考にしてください。

◆正しいスクワット

  1. 足を肩幅程度に開き、まっすぐ立つ。つま先はやや外側に向ける。
  2. 両腕を水平に伸ばし、視線は指先を見る。もものつけ根を後方に引くように意識しながら、ゆっくりしゃがむ。膝は、足の第2指の方向に向くように、自然に開く。
  3. 余裕があればさらに深く、膝がつま先ラインを越さないところまでしゃがむ。
  4. 元の姿勢に戻す。

◆ウォーキングのフォームと効果

ウォーキングフォーム 効果
  • 目線はやや前方に
  • あごはやや引く
  • 肩の力を抜く
  • 胸は張る
  • 肘はやや曲げ、手は軽めに握る
  • 足の甲は90度くらい曲げる
  • かかとから付いて、つま先で地面を押す
  • 脳を活性化する
  • よい睡眠がとれる
  • 食事がおいしい
  • 心肺機能の向上
  • 体力がつく
  • 精神が安定し、ストレスが解消される
  • 生活習慣病を予防する

寝たきりや要介護にならないためには、男性は、血管・血をきれいにして、動脈硬化を防ぎ、余分な脂肪を燃焼することがポイントです。一番お金もかからなくて簡単にできるのが、ウォーキングです。
女性の場合は、骨量・筋肉が低下しないように、筋肉を使う運動をすることがポイント。先ほどお話しした片脚立ちやスクワット、ウォーキングなどがお勧めです。
 いずれも無理のない範囲で、継続して行うことが大切です。

健康寿命を延ばすために、日ごろから意識して行っていただきたいのが、歩くことです。
現在の平均歩行数は、男性で7136歩、女性で6117歩、男女の平均で6600歩です。生活習慣病の予防には、1日8000~9000歩が目標です。平均歩行数から考えると、足りないのはあと1500歩。歩数の目安は、10分で1000歩なので、時間にしてあと15分多く歩けば、目標をクリアできることになります。
 よほど体調が悪かったり、大荷物を持ったりしているとき以外は、できる限り階段を使いましょう。通勤や買い物のとき、できるだけ歩ける場所を見つけて、積極的に歩くことが大切です。1日8000歩を下回ると、生活習慣病のリスクが一気に上がります。ふだんから意識して歩くことを心がけるようにしましょう。
 ウォーキングは、やり方次第で立派なエクササイズになります。歩幅は、身長の半分くらいを目安に、いつもより大きくするのがポイント。20分くらい歩くと、会話はできるけれど、汗もじわっと出てきて、体の内側から燃えている感覚もわかってきます。つま先を上げる、ひじをしっかり引くなど、正しいフォームを意識して行うことも大切です。

体だけでなく、心の健康を維持することも大切です。今、6割以上の労働者が仕事や職業生活に強い不安や悩み、ストレスを感じているといわれています。また、自殺する人は50代がもっとも多く、40代、30代がそれに続きます。一方、心の病は30代がもっとも多く、40代、50代と続きます。心の病でもっとも多いのはうつ病で、全体の85%を占めています。
心と体は深い関係にあって、運動によって心が変わるといわれています。ふだんから適度に運動している人は、情緒が安定しており、うつ病や不安症になりにくい傾向にあります。週2回、30分のウォーキングをすると、アルツハイマーのリスクが3分の1になるという報告もあります。

何か悩み事があるとき、それを話せる相手がいるかどうかというのが非常に重要です。人に悩みを打ち明けるというのは、相手に特にアドバイスなどを求めているわけではなく、話して悩みを共有してもらうだけでも、心がとても軽くなります。逆に、悩みを打ち明けられた場合は、ただうなずいて聞いてあげるだけでも十分です。そんなふうにして、互いに支え合うことが大切なのです。
一般的に、年齢が高くなるほど、相談できる相手、実際に相談する割合が低くなる傾向にあります。これが、自殺につながるともいわれています。

女性は、おしゃべりによってストレスを解消しているという人が多くみられます。おしゃべりすることで悩みやストレスを小出しにするので、自分の中に貯めこむことがありません。一方、男性に多いのは、ストレス解消のためにお酒を飲むという人。これは、一時的に悩みやストレスを忘れることはできても、根本的なストレス要因への対処にはなりません。自殺の割合が7:3で男性が多いのも、こうした行動の違いによるものだといえそうです。

呼吸法で心と体をコントロール

みなさんもぜひ、悩みを話せる相手を何人か確保してください。家族などでは言いづらいのであれば、他の人でもまったくかまわないので、誰かしらとつながりを持つようにしてください。また、趣味や好きなことに没頭したり、本から悩みを解決するヒントを得たりするのもよいでしょう。悩みやストレスを感じたとき、心身のリラックスを引き出せる方法を自分なりに見つけておくことが大切です。

呼吸法も、心と体のコントロールにはとても有効です。呼吸づかいが上手な人は、自律神経のスイッチをうまく切り替えられるので、集中力を高めたいときも、心を穏やかに落ち着けたいときも、自在にコントロールできるのです。
気合いを入れたいときには、勢いよく、早いテンポで鼻から息を吐くようにします。吸う息は、特に意識をしなくても、勝手に吸い込まれるのでそれでOKです。逆に、リラックスしたいときは、吸うときの倍くらいの長さでゆっくり息を吐きます。4秒吸って、8秒吐く、というくらいの間隔が目安です。

今日から始めたい健康習慣づくり

現在、100歳を超える長寿は4万4千人で、そのうち87%を女性が占めています。健康寿命を少しでも延ばすためには、今から健康習慣づくりに努めることが大切です。
私が提唱したい健康習慣は、次の5項目です。

  1. 1日8000歩の活動量を切らない。
  2. 1日10回のスクワットで足腰丈夫。
  3. 相談相手がいる。
  4. 体を壊すまで食べない、飲まない。
  5. 寝る、体を休める。

こうした健康習慣を実践し、男性は血と血管、女性は骨と筋肉を特に大事にしながら健康寿命を延ばしていただいて、ご自身の人生の目標が一つでも多く達成できますようお祈りしています。

お問い合わせ先:東京都情報サービス産業健康保険組合 健康管理グループ TEL 03-3360-5951
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