トップページ > 第109回健康教室

平成25年11月19日(火)~20日(水)、直営保養所「TJK箱根の森」において、第109回健康教室を開催しました。
今回は宿泊型健康教室で、1日目(第一部)は、「明日から役立つ心の健康管理のツボ」と題し、TJKメンタルヘルスセンター所長としておなじみの山﨑友丈先生による講演が行われました。
2日目(第二部)はTJK管理栄養士および健康運動指導士により、日常の食事に取り入れやすい減量対策、就業中に取り入れやすい運動に関する講義が行われました。その様子をレポートします。

第一部

「明日から役立つ心の健康管理のツボ」

●講師 山﨑 友丈 氏

日本大学大学院卒業、順天堂大学精神科勤務を経て87年より現職。現在EAP(従業員支援プログラム)を中心に多くの企業のメンタルヘルス支援の指導、社内研修、講演に多忙を極める。豊かな経験をふまえた実践的で明快な指導で好評を博している。アメリカニューポート大学心理学部助教授。マインメンタルヘルス研究所所長。TJKメンタルヘルスセンター所長。
産業精神保健学会認定産業精神保健専門職。臨床心理士。

企業におけるメンタルヘルス対策は採用活動からすでに始まっている、と私は思っています。さまざまな能力を持つ人がいるなか、採用時の見極めがうまくいかなければ、企業側のニーズと社員の能力がマッチせず、社員は自分自身のパフォーマンスをうまく発揮することができない、企業側も期待した能力を得られないことになり、結果的に双方が不幸になってしまうからです。
 こうした不幸の結果、入社後にやむなく病気になってしまう人たちがたくさんいます。なかでも心の病を患ってしまった社員に対して、企業としてどのような対応をすべきかについてお話ししたいと思います。

社員の病気を見過ごさないために、誰がアンテナを張っておくべきか。そのキーパーソンとなるのは管理者、もしくはプロジェクトリーダーです。これらの立場の人が、しっかり病気を見極めることが重要です。
心の病は、まず体の不調、仕事や生活面の変化として現れます。具体的な兆候として、以下のようなものがあります。

  1. 体調が悪くなる(頭痛、腹痛など)
  2. 遅刻、急な休み、早退が多くなる
  3. 仕事の能率が悪くなり、失敗も多い
  4. 責任感が乏しくなり、仕事がいい加減になった

部下の病気に気づいたとき、上司として絶対にやってはいけないのが、「病気を隠すこと」です。病人には早期に対応することが何より重要ですが、それを上司の自己判断により隠すことは、過失責任の発生、さらには安全配慮義務違反を問われることにつながります。心の病には、自殺というリスクが常に背中合わせにあることを理解し、病人が出たときには絶対に隠さない、を徹底することが重要です。

目安としては、月2~3回の欠勤に加え、遅刻が目立つようになったら、休職を検討したほうがよいでしょう。もし、本人がなかなか休職に同意しない場合には、
 「これは私(上司)が決めたことではなくて、労働法という法律のなかに安全配慮義務違反というものがあり、病気と知りながらそれを放置し、業務を行わせることは、上司としての過失責任を問われるし、虐待にあたる。つまり、会社が法律違反を犯すことになってしまうので、休職を勧めているのだ」と説得します。
 「絶対に隠さない」と同時に、病気になったらきちんと休ませる、という仕組みづくりを徹底することが大切です。

90%を占めるのが、うつ病です。ところで、精神科医の診断書はあてにならない、とよく言われますが、それは一面では事実です。なぜなら、精神保健福祉法という法律があり、患者の人権を守るためであれば、(診断書に)本当のことを書かなくてもいいことになっているからです。精神科医の診断書には「うつ状態(抑うつ状態)」「自律神経失調症」「適応障害」といった診断名が記載されていることがほとんどですが、これらはすべてうつ病と考えていいでしょう。
 しかし現在、純粋な意味でのうつ病は非常に少なくなっています。発達障害、人格障害、統合失調症、パニック障害、また、後に述べるような人格の未熟さなどの背景があり、それらの二次障害としてうつ病になっているケースがたいへん多くなっています。
 そして、近年とくに多いのが、愛着障害です。親に可愛がられた経験がない、親は自分のことなどどうでもいい存在だと思っている、と思いこんでいるようなタイプです。子どもを車に置き去りにしたまま何時間もパチンコに興じたり、子どもを寝かしつけて夫婦でカラオケに行ってしまったりなど、自分の欲求を押さえられなくなっている親が増えています。このような未熟な親に育てられたために人格が歪み、愛着障害になってしまう人が多い、というのが近年の傾向です。

疾病増加の原因とうつ病の発生原因

現在、純粋なうつ病は非常に少ないとお話ししましたが、同様に、純粋なパニック障害、純粋なアルコール依存症というのも少なくなってきています。先にも述べましたとおり、いずれも二次障害としてうつ病を併発しているケースが多く、これらがメンタル疾病増加の一因といえるでしょう。
 うつ病には、「内因性」のうつ病と「心因性」のうつ病の2種類があります。たとえば、職場での人間関係が悪くなって、うつ病になったという場合を考えてみます。内因性のうつ病では「人間関係が悪化した」という出来事が「誘因」であるのに対し、心因性のうつ病では「原因」となります。
内因性のうつ病とは、もともとうつ病になりやすい気質を持っている場合をいいます。人間関係の悪化という出来事が引き金となり、もともと持っていた気質が顕著に現れて、うつ病を発症すると考えられます。
一方、心因性のうつ病の場合は、その出来事が直接的な原因となります。そのため、心因性の場合は、人間関係を変えればうつ病も治ります。それに対し内因性の場合は、人間関係を変えてもなかなか治りにくいという特徴があります。内因性のうつ病で、なおかつ発達障害がある場合は、休・復職を繰り返しやすい傾向にあります。
 また、内因性の場合、ちょっとしたきっかけですぐにうつ状態に陥りやすくなります。さらに発達障害があると、休職していても、なぜ自分が休まされているのかを理屈で理解できません。昼夜逆転して遊び回るなどの状態がみられ、自己管理ができない傾向があるため、復職してもそれを継続することが難しいのです。

「労働契約法」では、休職中の社員は、自らがどういう状況で休職しているかを事業主に報告する義務があります。一方、事業主は、社員がどのような状況で休んでいるかを聞く権利があります。この場合、事業主は必ずしも経営者とは限らず、現実的には上司や管理職、人事職、総務職などの社員がそれに該当します。
休職中の社員に対しては、1ヵ月に1回は必ず声をかけてください。その際、社員の精神的負担を少しでも軽くするために、直属の上司ではなく、人事や総務の人間がその役割を受け持ったほうがよいでしょう。
連絡する際は、メールではなく電話で直接声を聞くようにします。そのほうが相手の様子がよくわかるからです。電車に乗れるくらい症状が回復したら、1ヵ月に1回くらいは来社してもらいます。可能であれば産業医面談をし、産業医が主治医に対して情報提供書を書き、いつごろ復職できるかの見通しを立てていきます。

職場復帰が可能かどうかを判断する基準として、次の3つがポイントになります。

  1. 睡眠覚醒のリズムが整っている
  2. 疲労が翌日までに十分回復できる
  3. 職場復帰への十分な意欲を示す

うつ病のメインの症状は、睡眠障害です。そして、日常生活に支障がなくなってきても、最後まで残りがちなのが睡眠障害です。睡眠覚醒のリズムが中途半端な状況のまま復帰させると、結局はその後も欠勤を繰り返すようになります。
 また、一日出社しても、翌日は疲れて欠勤してしまうという状態では、復職にはまだ早いでしょう。一晩寝たら翌朝には疲労が回復できている状況であることが必要です。
 ところで、主治医はときに、
 「もう大丈夫だから会社へ行っていいよ。調子が悪くなったらまた診断書を書いてあげるから、そのときはまた休めばいいんだよ」とアドバイスすることがあります。これは何も、無責任に言っているわけではありません。
長い間休職していた社員は、復職しても仕事がうまくできるだろうか、自分を受け入れてもらえるだろうか、といった不安を抱えています。そんなとき、「大丈夫だから、自信を持って行っておいで」と安心感を与え、背中を押すために言っている言葉なのです。

復職のタイミングで悩むのは、休職期間満了による退職の期日が迫っているときです。たとえば、あと2ヵ月で休職期間満了により退職というときに、睡眠覚醒のリズムが十分に整わない状態であるにもかかわらず、主治医が診断書に「職場復帰可能」と書いたとします。診断書は公文書なので、企業としては復帰させないわけにはいきません。しかし、本人の体調はまだ復職できる状態ではないので、本人も辛いし、企業側も受け入れが困難になるでしょう。そもそも、このような状況で「職場復帰可能」と書くこと自体が間違いなのですが…。
 しかし、復職は困難だとしても、リハビリ勤務であれば可能という場合があります。そんなときは、産業医から主治医宛てに、情報提供書を通じて、現状では職場復帰はまだ困難であることを伝え、診断書には「職場復帰可能」ではなく、「リハビリ勤務可能」と書いてもらうようにするのです。このように、状況をきちんと見極めて的確な対応をすることが大切です。

復帰後の職場での配慮について

復帰後は、できるだけ負担を軽減し、危険を回避するための配慮が必要です。
残業や深夜業務、出張、交替勤務、転勤は原則として禁止です。また、苦情処理業務に従事させることは絶対に避けてください。運転業務の可否については、産業医ではなく、薬を出している主治医が判断し、診断書として出してもらう必要があります。
職場復帰した際に重要なのは、「会社に来る」という生活のリズムをつくることと、職場の環境に慣れること。当面は、仕事をすることが目的ではない、ということを周りも理解することが大切です。

リハビリ勤務をする際の注意点

リハビリ勤務は、その意味合いを企業と社員の双方が正しく理解しておく必要があります。
リハビリ勤務とは、今の職場環境を借りて、今後、継続して出社するための訓練をし、それが可能かどうかを判断するためのものです。もし、会社に来られないことが何度もある場合は、リハビリ勤務期間も延長する必要があるということを、きちんと説明することが大切です。

以前より能力が低下していると感じられる場合は、主に薬による影響が考えられます。
投薬の仕方は主治医によって2通りあります。仕事中に頭がボーッとしないように薬の量を減らす場合と、復職による負荷に対処できるように逆に薬の量を増やす場合があります。いずれの場合も、患者の状態に応じて判断しているはずなので、投薬については主治医の指示に従うようにします。
仕事の能力的には、健常時の6~7割程度こなせていれば、それが現状のマックスと考えるようにしましょう。

再発する確率は、私は70%程度あると思っています。
心因性のうつ病であっても、(復職に)3回失敗することは稀だと思いますが、たいてい1回は失敗すると考えてよいでしょう。ただし、何度も失敗するとクセになってしまうので、早めの対処でクセをつけないようにすることが大切です。

新型うつ病についての対処法

従来のうつ病は「メランコリー型」といって、真面目で責任感が強く、仕事熱心な人に多く見られました。ところが、近年は「ディスチミア型」と呼ばれるうつ病が増えています。これは、真面目に仕事をしない、あまり責任は持ちたくない、物事を熱心にやらない、できるだけ楽をしよう、というタイプです。嫌なこと、不都合なことから逃げてしまう「逃避型うつ」、何かあると他人のせいにして自分の責任を回避してしまう「自己愛性うつ」などがその例です。これらはかつて、「新型うつ」「現代型うつ」といわれていたもので、今は「未熟型うつ」と呼んでいます。未熟型うつは、人格が未熟であることが最大の問題で、現代の若い人に多く見られます。
今は、とりあえず内定をもらったから入社するという「コンビニ型就職」をする人が増えています。そのため、一度就職しても簡単に辞めてしまうのです。そのような人たちに対しては、まずは目標を持たせることが大切です。しっかりした目標のもとで新入社員を訓練し、それをうまく成功体験に結びつける、という教育が必要といえるでしょう。

社員が無断欠勤した場合の対処法

人事担当の方にぜひ覚えておいていただきたいのが、社員が無断欠勤したときの対処法です。後々、問題を起こさないためのポイント、それは「きちんと段取りを踏むこと」です。
まず、午前中に本人宛にメールを送ります。これは「会社から連絡をとった」という証拠を残すためです。返信がなければ、昼ごろに再度メールを送ります。この時点で実家へ電話し、「○○さんが無断で休んでいるのですが実家へ帰ってはいませんか?」と尋ねます。
実家にもいないことを確認したら、ここで初めて本人のアパートを訪ねる、となります。なお、その際は必ず3人で出かけてください。1人だと最悪の場合に容疑者にされる可能性、2人だと口裏合わせを疑われる可能性があります。また、凄惨な現場を目の当たりにする可能性を考え、女性ではなく男性が行くようにしてください。
 アパートへ行ってチャイムを押し、出てこなければ、そのまま入らずに、まずは最寄りの交番へ行って事情を話します。警察官を通じて大家さんに連絡をとってもらい、大家さんと警察官にもアパートへ来てもらいます。警察官立ち合いのもと、大家さんにカギを開けてもらい、警察官を先頭に部屋の中へ入ります。こうすれば、万一のことがあっても、警察官が第一発見者となるため、容疑者等の問題を回避できます。ここで再度、実家へ電話を入れ、その時点での状況を伝えます。このような段取りを踏めば、さまざまなトラブルを最小限にとどめることができるはずです。

安全配慮と時間管理

企業は今、安全配慮と時間管理ということが非常に厳しく問われるようになっており、そのことを十分に理解する必要があると思います。
私たちが健康を維持するために必要な睡眠時間は、1日6~8時間とされています。法定労働時間の1日8時間に月45時間を超える時間外労働を加えると、1日6~8時間の睡眠時間を確保することができません。そのため、法律では月45時間を超える時間外労働が認められていないのです。また、1ヵ月で100時間超、2~6ヵ月平均で月80時間超の時間外労働は、確実に健康障害のリスクを高めるとされ、持病等のない人が就労中に死亡した場合は無条件で過労死と判断されます。
 また、安全配慮義務違反の時効は10年です。すでに退職した元社員から、在職中の過重労働を理由に企業が起訴される、ということも十分あり得ます。

自分の仕事は終わっているのに、残業している同僚を待つために会社にいる。あるいは、プライベートな情報収集のために会社のパソコンを利用する。こうした行為を注意することなく、上司が黙認してしまえば、これは管理職が認めた労働時間として扱われます。過重労働を訴えられた際、そのような時間が含まれていたとしても、企業側が責任を問われることに注意してください。
不適切な時間管理は、うつ病発症や過労死などだけでなく、残業代の未払いという問題にもつながるため、十分注意する必要があります。定時後に同僚を待つなら社の外へ移動させる、仕事を終えたらパソコンは閉じて帰宅させるなど、仕事とプライベートとのけじめをしっかりつけさせることが重要です。

心の健康管理というのは、どこまでが個人の問題で、どこまでが企業の責任なのか、その線引きが非常に困難です。そうしたなかで、双方が予防に努めると同時に、できる限りリスクを回避できるような体制を整えることが、今後ますます求められるといえるでしょう。

お問い合わせ先:東京都情報サービス産業健康保険組合 健康管理グループ TEL 03-3360-5951
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