令和元年7月23日(火)、TJKプラザにおいて、第126回健康教室を開催しました。今回は、科学的な実験とユニークな調査で人気の長寿科学バラエティ番組「ためしてガッテン」元演出担当デスクの北折 一氏を講師にお招きし、「ガッテン流で考えよう!健康生活の極意!!」と題してご講演いただきました。その模様をレポートします。
講師 北折 一 氏
(「ためしてガッテン」元演出担当デスク)
元・NHKの科学・環境番組部専任ディレクター。1995年、「ためしてガッテン」の立ち上げに参加。以来「NHKスペシャル」1本を除き、丸18年間一貫してガッテンの制作にあたった。消費者(視聴者)の立場から見て本当に有益・有効な商品(番組)とは何かを追求し続け、2000年にはマスコミ界初の「消費生活アドバイザー(経済産業大臣認定)」資格取得。2013年、NHK制作局の方針変更に疑問が生じ、10月末日でNHKを退職。現在は、おもに健康教育の分野で「人々のよりよい生活のお手伝い」を目指して、「健康情報の読み解き方・伝え方」「生活習慣病予防のダイエット」などの講演を行うほか、執筆活動も行っている。
インチキダイエットにだまされるな!!
健康づくりでもっとも簡単にできることは、ダイエットだと考えています。僕自身、「ためしてガッテン」制作中に行った実験で、10kg以上の減量に簡単に成功し、生活改善は非常に簡単だということを実証しました。ただし、「やりよう」があります。
今から12年ほど前、とあるテレビ番組が放送した納豆ダイエットがねつ造であることが発覚し、大問題になりました。にもかかわらず、未だに多種多様なダイエット法が登場し、それに飛びつく人たちが後を絶ちません。しかし、即効性を謳い、話題になっているダイエット法は、ほぼ100%インチキだと思って間違いありません。リバウンドなどおかまいなしに一時的に無理やりやせる方法か、はなからやせるはずがないのに誰かが嘘をついているか、この2つに1つです。なので、けっしてだまされないようにしてください。
ダイエット成功のカギを握る人体のメカニズム
一方で、内容が正しければそれでよいのかと言ったら、答えは×です。なぜなら、「ダイエットには運動と食事制限が必要不可欠」といったありがちな話は、人の心を遠ざけるばかりで、挫折を招くことになりかねないからです。そうではなくて、相手が耳を傾けたくなるようなアプローチをすることが重要なのです。では、おいしいものを食べ続けながら、太らない、あるいはやせる、ということは両立できるのか? 答えは「全然できます」。ただし、これにはやりようがあって、脳の性質を利用するのです。
人間には、体内環境をできるだけ一定に保とうとするメカニズムが備わっています。これを恒常性といいます。太っている人は、数カ月、数年かけて脂肪を蓄積して今の体形になっているため、脳は現状をありのままの自分として認識しています。そこから、ダイエットで急激に減量してしまうと、脳が異変に気づき、食欲を高めたり代謝を落としたりするホルモンを出して、体重を元に戻そうとします。これがいわゆるリバウンドです。
このメカニズムを理解すると、ダイエットに成功するためのただ1つの鉄則が導き出されます。それは「ゆっくり落とす」に限る、ということです。ゆっくり減量すると、脳はやがて、やせている自分をありのままの自分として認識するようになります。つまり、余分な脂肪がついても元に戻そうとするため、自動的に太りにくい体が手に入るというわけです。
メタボ対策のためには、体重の5%減らせばOK!
そもそも、脂肪が体にたまるとなぜいけないのでしょうか。脂肪細胞の中には倉庫と工場の部分があり、工場ではアディポネクチンという超善玉物質がつくられています。アディポネクチンは、血圧や血糖値を下げるほか、血液をサラサラにしたり、がんを抑制したりといった働きをします。しかし、アディポネクチンがつくられるのは倉庫がスカスカのときのみで、倉庫から工場の方にまで脂肪が溢れ返ってしまうと、アディポネクチンではなく、不良品ができます。この不良品は高血圧や高血糖を促進するホルモンとして働き、動脈硬化を促すため、心臓病や脳卒中のリスクが高くなります。こうした事態を防ぐためにも、脂肪を減らすことが大切なのです。
では、メタボ対策のためにはどれくらいやせたらいいかというと、体重の5%程度減量できればOKです。まだ倉庫の方に脂が残っていても、少しやせて工場の方がきれいに片付くと、再びアディポネクチンがつくられるようになります。すると、高血圧や高血糖を抑制して血液がきれいになるため、動脈硬化によるリスクを回避できるのです。体重の3.5%以下の減量では多くの人が3年後まで(または3年以内)にリバウンドするのに対し、5%まで落とした人は7年後までダイエット効果が続くというデータがあるので、5%までは減量した方がよいでしょう。
健康管理を怠ると、どんな未来が待っているか…?
健康の大切さをいくら訴えても、健康管理にうとい人は少なくありません。なぜなら、本人はとくに困っていないからです。しかし、一般社員はそれで仕方ないとしても、管理職が健康管理を怠ったら、経営の圧迫にもつながります。また、喫煙者は非喫煙者に比べて1.5倍労災を起こし、受動喫煙が起きている職場では1.7倍労災が起きているというデータがあります。さらに、職場の受動喫煙による死亡者は年間8000人近くにおよび、交通事故の2倍以上の方が亡くなっていることになります。
よく「太く短く生きる」などと言う人がいますが、多くの場合、「痛く苦しく生きなければならない」のが現状です。経済的負担も非常に大きく、人生後半の20年間薬を飲み続けた場合、血圧の薬では96万円、尿酸の薬では72万円、コレステロールの薬も72万円、高血糖の薬では156万円余分にかかることになります。さらに、タバコ代で376万円払って病気を悪化させるなんて、いったい何をしているんだ、という話です。
うれしいからハマる! 驚異のダイエット法
さて、ここからはいよいよダイエットの話です。今日紹介する「計るだけダイエット」は、1996~97年にかけて僕自身が考えたダイエット方法で、ノーベル賞の選考委員からも「ノーベル賞を与えてもよいくらいの発明だ」と言われたものです。やり方は実にシンプルで、朝と夜の1日2回、体重を計ってグラフに記録するだけです。朝は起床してトイレに行った後、夜は夕食や入浴を済ませ、パジャマに着替えてから計測。つまり、1日のうちで一番軽い体重と一番重い体重を記録するのです。朝と夜の体重を線で結び、角度が緩かったときは翌朝計ると今朝よりも落ちていて、逆に、角度がきつかったときは増えている。この少ししか食べなければやせる、たくさん食べれば太る、というごく当たり前の現象を目で見てわかる形にするわけです。
ポイントは、50gか100g単位で計れる体重計で計ること。そうすることで、日々のわずかな変動を見ることができます。前日食べ過ぎて体重が増えてしまったら、次の日は食事を減らしてみる。すると、夜の増え方が緩やかで、翌朝には体重が減っている。「やった! 昨日がんばった甲斐があった!」となり、これがだんだんおもしろくなってくるわけです。1日2回体重を計ってグラフに書きこむだけですが、「わざわざグラフまで書いているんだし、どうせだったら下げてやりたい」という魂胆が湧いてくるのが人間の心理です。そして、食事をほんの2口、3口減らしておくだけで、翌朝には50g、100g減っていて、「よし、やった!」と喜べる。朝から良い気分になって1日がんばれば、翌朝また、うれしいことが起こる。この循環に乗ってしまったらしめたものです。体重が減っていくのがおもしろいものだから、意志の弱い人でも無理なく続けられる。これが「計るだけダイエット」です。
このダイエット方法でも停滞期は必ずやってきますが、それは食事が減ってきたことに対して体が慣れる期間なので、続けていればまたすぐに減り始めます。減量するペースは1カ月に3kg以内に留めておくと、リバウンドが起きにくいでしょう。
ダイエット中、誘惑に負けてしまったときには、グラフの下に設けた「言い訳欄」を活用します。旅行や飲み会などでつい食べ過ぎてしまったときは、この言い訳欄に言い訳を書いておけばいいわけ(笑)。弱い自分を認めて許し、翌日からまたがんばることが大事なのです。また、言い訳欄に記入することで、どういうときに体重が増えてしまうかという記録が自動的に残るのもメリットです。
そして、一時的に体重が増えたとしても、すぐに元に戻せば問題なし。この“プチリバウンド未遂”は何回やってもOKです。というのも、ダイエットを順調に続けていれば、プチリバウンドは3日で終わるような体に変わっているはずだからです。これは、ホルモンが脳の感じ方を以前とは変えているためで、超満腹状態を連日続けることを脳が望まないため、自然と食欲が落ちて元に戻るのです。ですから、楽しい席では大いに楽しんでください。
禁煙するなら北折流「BBS」がオススメ
運動については、ある程度やせてから始めた方が圧倒的に有利です。なぜなら、少しずつ体重が減る喜びを知っているため、運動後の食事もワクワクした気持ちでコントロールできるからです。そして、期待どおり、あるいはそれ以上に翌朝体重が落ちていると、運動することが楽しくなり、運動を継続したいというモチベーションが自然と高まるというわけです。
次に禁煙について。従来型の禁煙指導は「Bad Bad Smoking」、つまりタバコは体に悪いから、周りに迷惑だからやめましょう、というものですが、これでやめられる人はごく一部です。なので、北折流の「BBS」は「Baka Baka Shii(バカバカしい)からやめる」。タバコが本当に好きで吸っているなら続ければいいと思いますが、残念ながら喫煙者のほぼ全員がニコチンに脳を支配されている状態です。こうなると、タバコはもはや嗜好品ではなく、やっかいな薬物です。朝、目が覚めてから仕事が始まるまでの間にタバコを吸うという人は、ニコチンの依存症になっています。これは「朝から酒飲まないと仕事にならない」と言っているのと同じことです。
禁煙するために決心や我慢が必要だったのは過去の話で、今では禁煙補助薬が保険適用で非常に安く手に入り、3カ月後には8割近くの人が成功しています。喫煙者は労働生産性が28%落ちるというデータがありますが、禁煙して4年で非喫煙者と同等まで回復するといわれます。また、心筋梗塞による死亡率は、禁煙して6年で非喫煙者と同レベルまで低下。さらに、禁煙したことを誇りに思う気持ちは15年経っても継続し、幸せ度が36%アップするというデータもあります。再喫煙しちゃっても、またやればよいだけの話です。たばこメーカーの奴隷となって多額の上納金を収め、職場では十分な能力を発揮できず、さらには自らの体を蝕んでいく──これが喫煙者です。さらに、オリンピックイヤーに向けて喫煙できる場所は減っていく一方なので、そうなってからイヤイヤやめるよりは、「バカバカしいからやめてやるわ!」とドヤ顔でやめた方がどれだけ気持ちいいか、ということです。
健康のために覚えておきたい「カメの甲より○○の効」
最後に、太ってもいないのに血糖値が高い人のために、とっておきの秘策を紹介します。ある重度の糖尿病患者の実例です。1日3回インスリン注射を打たなければいけなかった人が、歯科で口腔内を清掃してもらっただけで、翌日から血糖値が劇的に下がり、翌月からはインスリン注射が不要になりました。なぜこのようなことが起きたかというと、歯周病菌がインスリンの働きを悪くしていたからです。また、歯周病菌は血管のボロボロになったところに住み着くため、口腔内をきれいにするのは、血管を磨いているのと同じことです。高血糖はアルツハイマーの原因でもあるので、認知症予防にもなります。ほかにも、脳卒中で寝たきりだった人が口腔内清掃をした翌日から立って歩けるようになるなど、劇的に健康状態が良くなった例がいくつもあります。これにはさまざまな理由がありますが、ちゃんと噛めるようになったことで、全身の栄養状態が改善したことも一因と考えられます。まさに「カメの甲より“噛め”の効」と言えるでしょう。
今よりも良くしようと思ったら、今あるものの何かを変えるしか方法はありません。そして、変え始めた人だけが、「こっちの方がずっといい!」ということを知ることができる──「カメの甲よりカエル(変える)の効」というわけです。では、いつやるかといったら今でしょ!ということで、ぜひとも近いうちに、何かひとつ変えることから始めていただけたらと思います。
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