平成24年10月18日(木)~19日(金)、直営保養所「TJK箱根の森」において、第106回健康教室を開催しました。今回は宿泊型健康教室で、1日目は第一部としてフィットネスアドバイザーの小川りょう氏を講師にお招きし、近年話題となっているメタボリックシンドローム「内臓脂肪症候群」とロコモティブシンドローム「運動器症候群」について、簡単なストレッチなどを交えて講演をしていただきました。2日目は第二部として、TJK保健師および管理栄養士による講義が行われました。その様子をレポートします。
第二部
「錆びない身体を手に入れよう!」
●講師 TJK東中野保健センター 管理栄養士 猪爪靖子
私たちの身体は、食物からとった栄養素と酸素を反応させて、エネルギーを作り出します。この過程で発生するのが「活性酸素」で、とり込んだ酸素の1~3%が活性酸素になるといわれています。
活性酸素は、白血球とともに体の免疫力を高めるなど、身体にとってなくてはならないものです。ただその反面、強い酸化力を持っているので、細胞組織を酸化させ、傷つけてしまいます。この状態を「身体が錆びる」と表現しています。
活性酸素によって酸化した細胞組織は、正常な機能を失い、それが老化や病気へとつながります。人間の身体は、本来は活性酸素を消去する酵素を持っているのですが、その酵素は年齢とともに減少してしまいます。ですから、老化を少しでも遅らせ、いつまでも生き生きと元気で過ごすためには、活性酸素をむやみに発生させないことが重要なのです。
そのためには、「体重を適正に保つ」「生活習慣を見直す」、この2つがポイントになります。
体重を適正に保つためには、BMI25を超えないようにするか、もしくは、20代のころの体重から大幅に増やさないようにすることが大切です。
体重増減のメカニズムは実にシンプルで、消費カロリーより摂取カロリーのほうが多ければ体重は増えるし、逆に、消費カロリーよりも摂取カロリーのほうが少なければ体重は減ります。
ここで気をつけなければいけないのが、40代前後からは太りやすくなるということ。これは、年齢とともに筋肉量が減り、基礎代謝が落ちてしまうためです。その状態で、これまでと同じような食事を続けていると、当然ながら体重はじわじわと増えてしまいます。
太らないようにするためには、食べる量を減らすか、活動量を上げるか、いずれかを実行する必要があります。
食事で調節する場合、もっとも効果的なのは、夕食以降の摂取カロリーを抑えることです。
1日80kcal減らすとすると、1ヵ月で2400kcalの削減になります。脂肪1kgを燃焼させるには7000kcalのエネルギーが必要です。単純計算すると、
7000kcal÷80kcal=87.5
となるので、約88日間かければ1kgやせられることになります。これを1年間続ければ、約4kg減量できることになります。
夕食で減らす場合、一番簡単なのはご飯の量を減らすことです。ご飯50gが約80kcalに相当します。男性用の茶碗で、4分の1くらいの量です。回転寿司でいうと、2貫分のシャリが50g前後になります。なので、ご飯の量をほんの少し減らすだけで、80kcal削減できます。
ご飯以外では、調理法や素材を変えたり、嗜好品の選び方を変えたりするだけでも、次のようにカロリーカットすることができます。
◆油で調節
とんカツ 467kcal ⇒ 豚の生姜焼き 340kcal 127kcalカット
◆素材で調節
牛バラ肉(100g) 454kcal ⇒ 豚ヒレ肉(100g) 115kcal 339kcalカット
◆アルコールで調節
果汁などの入ったチューハイ(350ml) 189kcal ⇒ 烏龍チューハイ(335ml) 87kcal 102kcalカット
生ビール(500ml) 202kcal ⇒ ハイボール(ウイスキー40ml) 90kcal 112kcalカット
◆その他のアイデア
- アルコールを飲む場合は、主食をとらない[ご飯(男性用茶碗)1杯を減らせば320kcalカット]
- 夕食のおかず+アルコール+つまみ(乾き物など)
⇒夕食のおかず+アルコールのみにする(ポテトチップス1袋を減らせば340kcalカット) - 食後の果物やデザートをやめるか、低カロリーのものに変える
りんご(1個) 92kcal ⇒ みかん(1個) 32kcal 60kcalカット
アイスクリーム 225kcal ⇒ フルーツゼリー 136kcal 89kcalカット
夕食はゆっくり楽しみたいという方は、ランチで調節しましょう。
お弁当の場合、唐揚げ弁当は800kcal近くありますが、幕の内弁当なら600kcalちょっとで抑えられます。揚げ物はどうしてもカロリーが高いので、食べる頻度をできるだけ少なくしましょう。
コンビニでバラ買いする場合、男性に多くみられるのが、おにぎりとカップ麺というように、炭水化物同士の組み合わせです。おにぎり2個と大きめのカップ麺では、900kcalを超えてしまいます。似たような組み合わせであっても、ワンサイズ小さめのカップ麺にするだけでも、かなりカロリーカットできます。さらに、カップ麺の代わりに、卵や野菜の入ったお惣菜をプラスすれば、カロリーカットできるだけでなく、栄養バランスもグンとよくなります。
外食の場合は、洋食系のものや麺類よりは、肉野菜炒め定食や焼き魚定食など、定食類がお勧めです。
食事をするときは、食べる順番もポイントとなります。まず野菜を食べ、次に肉や魚などを食べ、最後にご飯を食べるようにします。野菜には食物繊維が豊富に含まれているので、先に食べることで、後から入ってくるたんぱく質や炭水化物の吸収を緩やかにしてくれます。すると、血糖値もゆっくりと上がるので、インシュリンの分泌も抑えられます。インシュリンは脂肪の合成を促進するので、インシュリンの分泌が抑えられることで、脂肪を貯めこみづらくなります。
また、野菜はよく噛んで食べる必要があるので、あごの刺激が脳に伝わり、満腹感を得やすくなります。野菜には抗酸化物質も豊富に含まれているので、これらをたっぷりとるためにも、野菜を先に食べるのが理想です。
間食や飲み会の席でも、何気なく口にしたものが、意外に高カロリーである場合があります。何も考えずに食べてしまうのではなく、パッケージやメニューでカロリー表示をチェックして選ぶ習慣をつけるようにしましょう。
運動でトライ
運動をする場合は、自分の体調に合ったものを選ぶことが大切です。慣れない運動をいきなりやってしまうと、ひざや腰を痛めるなど、故障の原因になります。
脂肪の燃焼を目的とするならば、激しい運動は向きません。心拍数が1分間に100前後になるような緩やかな運動が、脂肪の燃焼には効果的です。
時間がとれる方は、ジムに通ったり、通勤の際に一駅手前で電車を降りて歩いたりなど、うまく運動を取り入れるとよいでしょう。
体重70kgの男性の場合、ウォーキング約20分で80kcalの消費になります。わずか寿司2貫分のご飯を減らすだけで80kcal削減できるのと比較すると、運動でカロリーを消費するのにいかに時間がかかるかがわかります。
しかし、運動をすると、心肺機能が高まる、持久力がつく、筋力が強化されて基礎代謝が上がり、太りにくい身体をつくるなど、さまざまなメリットがあります。また、食事だけで減量した人よりも、運動を取り入れた人の方が、お腹周りの脂肪が減りやすくなります。
やはり、効率よく減量するには、運動と食事を組み合わせたほうがよいでしょう。
運動する時間がとれないという方は、日常の活動エネルギーを上げるしかありません。駅や職場ではできるだけ階段を使う、昼休みには少し遠い店まで食事に行く、ふだんから大きな歩幅で速足で歩く、といったことを心がけてみましょう。1分間片脚立ちするだけでも、インナーマッスルや骨、筋肉の強化になります。
ストレスも、活性酸素を増やす大きな要因になります。ふだんの生活習慣を見直して、精神的、身体的ストレスを少しでも解消することが大切です。そのためにもまず気をつけたいのが、ふだんの姿勢です。
デスクワークで一日中座りっぱなしの方などは、猫背になりがちで、しかも長時間同じ姿勢をとり続けていることが多くなります。すると、筋肉は固まってきて、血流が悪くなり、首こりや肩こり、腰痛、脚のむくみ、眼精疲労などを引きおこします。これが積もり積もってくると、本格的な体調不良につながります。
これを解消するために大切なのが、こまめにケアをすることです。1時間に1回でもいいので、次のような方法で体をほぐすようにしましょう。
- 眼の体操(顔は正面に向けたまま、眼球だけを上下左右に動かしたり、ぐるりと回したりする)
- 首のストレッチ
- 肩甲骨を引き寄せるストレッチ
- ふくらはぎ、足首のストレッチ
- 腹式呼吸(ゆっくり吐くことを意識して)
- 指のツボ押し(手の爪の生え際の両脇を、痛気持ちいい程度にギューッとつまむ。親指から順番に、10秒ぐらいずつ行う)
次に大切なのが、身体を温めることです。
私たちが特に意識しなくても働いているのが、自律神経です。自律神経には交感神経と副交感神経があり、それぞれがまったく反対の働きをしていて、常に2つがバランスをとっています。交感神経は、日中活動するときや、緊張したときに優位になります。逆に、副交感神経は夕方以降に優位になり、心身をリラックスさせ、休養をとらせます。
交感神経と副交感神経がバランスよく働いているときは、身体もいい状態を保てます。ところが、心身のストレスや冷えなどがあると、交感神経ばかりが優位になってしまいます。すると、体温が下がる、血圧が上がる、呼吸が速く浅くなる、血行が悪くなる、免疫力が下がる、といった状態になります。自律神経と血液循環、免疫力は互いに影響しあっていて、自律神経のバランスが整っていると、血液循環もよくなり、免疫力も高まります。
身体を温めると、副交感神経が優位に働くようになるので、さまざまな不調を解消することができます。以下のような方法で、身体を温める習慣をつけましょう。
- ぬるめ(38~40℃)のお風呂にゆっくり浸かる
- 首、脇の下、お腹、太ももの前、お尻などを温める。湯たんぽ、カイロ、マフラー、腹巻きなどを使うとよい
- スクワット、ウォーキングなど下半身を鍛える運動をする
- 根菜、ねぎ、しょうが、にんにく等、身体を温める食材を積極的にとる
食事のときの食べ方にも、注意が必要です。大切なのは、よく噛んでゆっくり食べることと、左右均等に噛むこと。
あまりよく噛まずに早食いすると、過食のもとになります。よく噛むことであごの刺激が脳に伝わり、満腹感を得やすくなります。また、噛むことでだ液の分泌が増え、口腔内の殺菌・抗菌作用により、むし歯の予防にもつながります。
また、左右どちらか一方で噛む偏った噛み癖は、筋肉の使い方がアンバランスになり、首こりや肩こりの原因になります。
そして、たばこも活性酸素を多いに発生させるので、喫煙者の方はぜひとも禁煙にチャレンジしてほしいと思います。今は、禁煙外来もありますし、禁煙パッチなどを利用するのも非常に有効です。
よい睡眠をとることも、ストレスを解消する意味でもとても大切です。
できれば、夜12時前には床につくようにしましょう。その理由は、成長ホルモンを有効に働かせるためです。成長ホルモンとは、傷ついた細胞組織の修復、疲労物質の除去、新陳代謝の促進などの働きで、寝ている間に身体をメンテナンスしてくれるホルモンです。成長ホルモンは、夜10時から深夜2時の間にもっとも活発に分泌されるので、この時間帯に眠っていることが大切なのです。
寝る前のアルコールや糖質のとり方にも、注意が必要です。寝る前にアルコールを飲んでしまうと、アルコールを分解するために、寝ている間も肝臓はフル活動することになります。また、アルコールには利尿作用があるので、途中でトイレに行きたくなって目が覚めてしまい、熟睡の妨げになります。飲む場合は、ごく少量にとどめておくようにしましょう。
また、寝る直前に糖質をたくさんとるのもよくありません。成長ホルモンは、血糖値が下がり始めたのを合図に分泌されます。寝る前に甘い物や炭水化物を食べてしまうと、血糖値が上がるため、成長ホルモンの分泌を妨げてしまうのです。
睡眠時間は、できれば6時間以上は確保したいものです。寝る前に深呼吸をしたり、首やお腹を湯たんぽや蒸しタオルなどで温めると、リラックスして、よい眠りにつきやすくなります。枕も睡眠の質を左右するので、自分に合ったものを使うようにしましょう。
食べることは、たしかに手軽で簡単なストレス解消法ですが、それ以外にもストレスを解消する手段はいくらでもあります。趣味でもなんでもいいので、笑顔になれること、心から楽しいと思えることなど、自分に合ったものを見つけたいものです。
食事や運動だけでなく、日常の何気ない行動をちょっと意識して変えることで、その日々の積み重ねがいずれ大きな差となってあらわれます。実行できそうなものからまずは始めてみて、ぜひ錆びない身体を手に入れていただきたいと思います。
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