健康教室バックナンバー

平成28年7月27日(水)、TJKプラザにおいて、第117回健康教室を開催しました。今回は、コミュニケーション・プロデューサー、空気活性プロデューサーの夏川立也氏を講師にお迎えしました。ご自身の吉本興業での芸能人としての経験のほか、会社経営者、青年会議所理事長といった経験をもとに、ポジティブな空気が組織としてのモチベーションを上げ結果を良い方向に導く、笑いを通じたビジネスコミュニケーション理論をお話しいただきました。その様子をレポートします。

講師 夏川 立也 氏
(コミュニケーション・プロデューサー 空気活性プロデューサー)

京都大学工学部在学中に、落語家桂三枝(現・六代目桂文枝)に弟子入り。卒業後、吉本興業の芸能人としてTVドラマ・バラエティ・舞台・映画・ラジオのパーソナリティとして芸能活動をスタート。
 その傍ら、自ら起業家として株式会社を設立、経営者として20年間経済活動に取り組み、地域に根差した企業を作り上げる。利害関係を超えた社会貢献活動にも取り組み、社団法人豊中青年会議所に入会、第37代理事長を務める。
 お笑いタレント・企業・ビジネス・社会貢献、これらの経験から、楽しい空間の周囲に人は集まり、その集団はポジティブであることに着目。周囲を楽しい気分にすることの重要性に、心理学的アプローチ、脳内プロセスの構築を加えて”実践理論 パワーコミュニケーション術”を開発。全国各地で講演中。
 モットーは、”やればできる! 想えばなる! 笑えば咲く!”。

ビジネスシーンにおいて、なんとなく職場のムードが良くない、この人とはどうもうまくいかない、ということがあると思います。その理由を突き詰めると、理屈は実にシンプルで、みなさんはその解決策を頭ではわかっているのに、そのほとんどのことを実際にやれていないからです。調子が悪いときほど、関係性が悪いほどやれていない。だから、成果が上げられないのです。
今日お話しするなかで、一番大事なことは、「取り組みを決めて、プラスαすべきことをつかむ」ということです。人はいくつになっても、劇的に変われるような方法があるのではないか、といった幻想を抱きがちです。でも、そんなものはあるわけがありません。まず肝に銘じていただきたいのは、「知っていながらやっていないことをまず見つけて、それを一つひとつきちんとやる」ということ。これが実は一番大事なのです。

仕事で成果を上げるために、良いコミュニケーションは大事です。大学のコミュニケーション学では、「良いコミュニケーションとは、情報がちゃんと相手に伝わることである」と教えています。しかし、ビジネスでは結果が必要なので、結果を出すためには、情報が流れているかを見ているだけでは不十分です。
大事なのは、「相手の感情をどれだけ意識して動かすことができているか」です。これができるようになると、かなり結果がついてきやすくなります。周りの人の感情は、相手がお客さんであろうと、上司であろうと部下であろうと、自分次第で望んだ方向に意図的に動かすことができます。そして、それによって相手の行動が変わります。なぜなら、感情と行動はつながっているからです。

協力関係を意識的に作ることで結果はついてくる

僕は、桂三枝(現・六代目桂文枝)の弟子になって29年になりますが、あることに気づくのに20年かかりました。それは、お笑いの舞台では、おもしろいことを言ったからといって、ウケるわけではない。お客さんが笑おうと思って来ているから、笑ってもらえるんだ、ということです。お客さんに「笑おう」という状態になってもらう必要があるし、「この人はおもしろいこと言ってくれる人やな」という信頼感や期待感、土台といったものが絶対に必要なのです。
 これは、仕事でも同じことが言えます。いい商品だから売れるわけではないし、正しい取り組みだから周りの人が言うことを聞いてくれるわけでもない。大事なのは、協力関係を意識的に作ることです。これは、上司と部下、売り手と買い手、どちらにも言えることです。みなさんが知らず知らずのうちに醸し出している職場のなかでの空気感、上の人が作っているムード、お客さんと向き合ったときの風通しといったものを、意図的に改善するだけで、いろいろな結果は絶対についてくるのです。
 ネガティブな感情を持っている人に囲まれながら仕事をしているのと、ポジティブな人に囲まれて仕事をしているのとでは、まったく結果は変わってきます。そこで、みなさんに意識していただきたいのは、「周りの人の感情に良い変化を与えられるような働きかけを、自分なりにプラスαして実践してみる」ということです。そうすれば、必ず結果はついてきます。

9割以上の無意識の部分をいかに味方につけるか

人間の行動のうち、実に9割以上は無意識でとっている行動だと言われています。つまり、コミュニケーションというのは、お互いに意識できない9割以上の部分が水面下で暴れ回っているということです。にもかかわらず、人はうまくいくことを前提にしすぎているのです。
 しかし、9割以上の無意識の部分には、意図的に力を加えることができます。そして、意図的に力を加えることにより、味方につけることができるのです。スポーツの世界で行われるメンタルトレーニングなどは、まさに無意識の部分を味方につける良い例と言えるでしょう。
職場のなかで、たとえ誰も口には出さなくても、「最近の職場、ちょっと微妙やな」という空気がぼんやりと漂っていたとします。するとそれだけで、悪いことばかりが起こったり、良い結果が出なかったりします。このように、状態が違うだけで、結果は間違いなく変わるのです。これは当たり前のことなのですが、つい忘れてしまいがちです。
 たとえば、つきあい始めて間もないラブラブのカップルは、少々嫌なことが起きても、軽くスルーできます。でも、ちょっと関係がギクシャクしてきたときに同じ出来事が起こると、それが原因で大ゲンカになったり、別れてしまったり、といったことにもなりえます。これと同じようなことが、みなさんの職場やお客さんとの間でも起こっているということです。
 そのような状態を避けるために大事なことは、結果には疑問を持つ、ということです。たまたまうまくいっただけかもしれないし、逆かもしれない。時々でかまわないので、冷静な視点で疑問を持つ、ということが大事です。そして、結果を無理に変えようとしないこと。どんなに努力をしても、どうすることもできないということも多々あります。それを素直に受け入れることも大切です。
9割以上の無意識の部分に意図的に力を加えて味方につけ、なんとなく大きな流れが味方についてきたな、と自覚できるようになってきたら、状況はかなり好転していることでしょう。

時には事実以外のことを意図的に相手に伝えることも必要

僕が最初に舞台に上がる前に、三枝さんから言われたことがあります。
「ええか、言葉っていうのは、どれだけ頑張っても、どれだけ達人になっても、お客さんには半分しか伝わらない。そう思っておかないと失敗するぞ。言葉はなんぼ頑張っても半分。その代わり、感情は頑張らなくても勝手に2倍になって跳ね返ってくる」と。
伝えたいのは、言葉自体じゃない。感情や概念みたいなものを言葉に当てはめて投げかけているのであって、言葉は入れ物みたいなもの。形がないものを入れ物に入れるから、形にはなるが、曖昧さは必然的に内包されている。
 だから、ミスコミュニケーションは当たり前と言えば当たり前。言葉という誰もが使えるモノを武器にして、みなさんは仕事をし、営業マンは買ってもらおうとし、芸人は笑ってもらおうとする。だからこそ、言葉に頼っていたらいい結果はなかなかついてきにくいですよ、ということを言葉のプロから教わりました。

もう一つ、三枝さんのエピソードをご紹介します。三枝さんがまだ売れていなかった時代、自分の師匠のテレビ番組の前説(テレビ番組の公開放送などで本番前に観客に行う説明のこと)をやっていました。その舞台に上がる直前に必ずやっていたのが、水を1リットルがぶ飲みすることだったそうです。舞台の上はライトが当たって、ものすごく暑い。水を大量に飲んだあと、そこで一生懸命しゃべるので、必要以上に汗をかく。そして、前説が終わった後、びっしょり汗をかいた状態でプロデューサーの前を通り過ぎると、「あぁ、三枝君、頑張ってんねんな」といって、出世の道に引っ張ってもらったそうです。
 なかには、こういうアプローチを嫌う人もいますが、でも、ちゃんと結果を出しているのは事実です。ここで大事なのは、事実以外のことを、どうやって意図的に相手に伝えるか、ということです。社会人になったら、絶対に結果が欲しい、というときがあります。そのような大事な場面に備え、自分なりのやり方を準備しておくことが大切なのではないでしょうか。クレーム処理などもそうです。ただ謝るのではなく、「ごめんなさい」という言葉のなかに埋まっている謝罪の感情をいかに相手に伝えるか。感情からの働きかけができると、相手の感情を動かしやすくなり、結果も変わってくるはずです。

僕は、三枝さんが司会を務めるテレビ番組の前説をやるなかで、前説とは、3つの要素を意図的に作っているんだ、ということに気づきました。この3つの要素は、みなさんが仕事をする上でも、組織を強くしていく上でも、大事なポイントとなります。
 まず1つめは、一体感を意図的に作る。人間の集団がより良い成果を求めていくためには、一体感というのは絶対に必要です。
2つめは、相手の集中力を意図的に引き出す。人間というのは常に集中することはできないので、こちらが集中してもらいたいタイミングに合わせて集中してもらうのです。
3つめは、相手の能動性を引き出す。つまり、相手から食いついてくる感じを作るということです。前説で言えば、無理やり番組観覧に連れてこられたおっちゃんを、「せっかく来たんだから楽しもうか」みたいな気分にさせるということです。
一体感、集中力、能動性、この3要素を生み出すために前説では何をやっているかというと、「プラスの行動をあえて一緒にできるように工夫する」ということです。落語家さんが小話をしたり、ADさんが拍手の練習をさせたりするのも、すべてはこのためなのです。前説のやり方をそのままというわけにはいきませんが、TPOやキャラクターなどを踏まえながら応用すれば、この3要素はビジネスシーンでも活用することができます。

そして、人間というのは楽しい行動をとったら、楽しい感情が生まれます。これをぜひ、もっと意図的に活用してください。
 「こ⇒か⇒く⇒か」という図があります。「こ」は行動、「か」は感情、「く」は空気のことで、これらは密接に関係していて、行動⇒感情⇒空気⇒感情、というサイクルをグルグルと回っています。このうち、実際に目に見えるのは行動だけです。そのため、「なんでみんなこうできへんのやろ」「なんでこのお客さんこうしてくれへんのやろ」と、そこばかりを考えてしまいがちです。でも、行動には、それを生み出すための感情があります。ですから、意識すべきなのは、特定の感情を生み出す働きかけなのです。
行動は、感情を作ります。たとえば、「イェーイ!」と言いながらハイタッチするだけで、ちょっと楽しい気分になりますよね。そして、感情は空気を作る。作られた空気感によって、そこにいる人たちの感情は絶対に影響を受け、しかもその力は甚大です。ですから、行動を生み出すためのスパイラルをいかに意図的に回すかが大事なのです。
状況がいいときであれば、そのプラスの勢いを後押しするように働きかける。逆に、悪い状況のときは、空気や感情が変えられないのであれば、行動を変える。行動は、やると決めてやったら絶対にできるものです。みなさんがやっていないことは山ほどあって、それはできないのではなく、やると決めていないだけです。やると決めるところから、スパイラルは回り始めます。意図的にやり始めることで、いろいろなことが動き出し、状態は変わってくるのです。

僕は、コミュニケーションに関しては誰よりも勉強してきたつもりですが、たどり着いた結論は、「当たり前のことを積み上げていく以外に、方法論は絶対にない」。このひと言に尽きます。
「当たり前のことを当たり前のようにやる」。これが難しいのは、やってない当たり前だからであって、見つけることすら難しいのです。では、やってない当たり前をどうやって見つけたらいいか。その答えは、「あの人との間でやっていて、この人との間でやっていないことを見つける」ことです。
 どんな些細な取り組みでも、今までやっていなかったことをやり始めると、最初は絶対に義務感があって、ギクシャクします。でも、3週間継続することで、人間の行動は習慣になります。このことは、行動心理学でもちゃんと証明されています。このときに大事なのは、プラスαした取り組みをやったかやっていないかを、客観的に見て判断できること。そして、継続してみて、習慣になったことを実感することです。プラスαした取り組みを3週間続けることで良い当たり前になり、次に新しい取り組みをプラスαして、次の3週間でまた良い当たり前になる。これをくり返すことです。
 まとめますと、大事なことの1つめは、あの人との間でやっていてこの人との間でやっていないことを見つけて、当たり前を決めること。2つめは、その新しい取り組みを3週間継続すること。そして3つめは、数カ月に1回でかまわないので、進歩の実感を得ること。①決める、②続ける、③進歩の実感を得る。この3点セットの上に、当たり前をどんどん盛り込んでいくようにしてください。

コミュニケーション力を上げる2つの即効テクニック

最後に、良いコミュニケーションの状態を作る上で、即効性の高い方法論がいくつかあるのでご紹介しましょう。
 その一つが「ピグマリオン効果」を使ったものです。相手に何かを伝えようとするとき、命令形で言えば、「○○してくださいね」という言い方と、「○○しないでくださいね」という言い方、二通りの言い方ができます。それを、私たちは知らず知らずのうちにチョイスしているのですが、実は人というのは、言葉にものすごく引っ張られるという特性があります。そのため、投げかけられた言葉のイメージに、無意識のうちに行動がついていってしまうのです。これを、ピグマリオン効果と言います。
 あるプロ野球チームの例を挙げます。ものすごく球の速いピッチャーがいて、バッターはつい高めの球に手を出してしまい、空振り三振ばかり。コーチが、「高めは振るな」といくら指示を出しても、いっこうに直らない。ある日、コーチはピグマリオン効果のことを知り、「高めを振るな、というのはネガティブな指示だから、これをポジティブな言い方に変えたら、攻略できるのでは」と考えました。では、なんと言ったらよいか。答えは、「低めを狙え」「低めを打て」です。たったこれだけのことで、選手の才能や能力はまったく変わらないのに、選手の行動が変わってくるのです。
 このピグマリオン効果は、ビジネスシーンでも非常に有効です。上司や周りの人間が関心や期待を示すことにより、社員のモチベーションが上がり、生産性アップにつながるのです。
 そして、もう一つ。マイナスの言い方をしてしまったら、1日1回は、そのことに気づくようにしてください。次に、どうしたらプラスの言い方に転換できるかを考えてください。さらに、相手が何かマイナスのことを言ってきたときに、プラスで返す、という練習をしてみてください。
 たとえば、職場の同僚の奥さんが、2~3日検査入院することになったとします。「うちの奥さん、入院しちゃって」と言われたとき、「あぁ、大変やね、がんばってね」というのはありがちな答え方ですが、ちょっと空気が沈んでしまいます。そんなときは、「奥さん孝行できるいい機会だね」と返してあげましょう。もし、奥さんの趣味がDVD観賞なら、「今日はちょっと早めに帰って、DVDレンタルして、持って行ってあげてくださいよ」といった具合です。そんなふうにプラスで返すことを意識するだけでも、コミュニケーションやその場の空気感は断然良くなります。

いろいろお話ししてきましたが、すべての答えは非常にシンプルで、「当たり前に取り組むことが非常に大事」ということです。そして、キーワードは、「プラスの行動をあえて一緒にする」「あの人との間でやっていて、この人との間でやってないことをやる」、この2つです。これらのことを意図的にあえてやることによって、周りの方々との関係をより良い方向に回すようなきっかけにしていただけたらと思います。

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