健康教室バックナンバー

平成29年7月27日(木)、TJKプラザにおいて、第120回健康教室を開催しました。今回は、東京医科歯科大学名誉教授であり、カイチュウ博士の藤田紘一郎氏を講師にお迎えしました。近年、さまざまなアレルギー疾患やうつ病が急増しているのは、免疫力の低下が関係しており、その背景には現代の過剰な清潔志向があると警鐘を鳴らす藤田氏。そんな現代人にとって必要な、自然治癒力健康法についてお話いただきました。その様子をレポートします。

講師


講師 藤田紘一郎 氏
(東京医科歯科大学名誉教授・カイチュウ博士)

1939年、中国東北部(旧満州)生まれ、三重県育ち。
学生時代は柔道部に所属、整形外科医を目指す。
東京医科歯科大学を卒業後、東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。
 インターン時代、トイレで偶然すれ違った教授に誘われこの分野に。
 テキサス大学留学後、金沢医科大学教授、長崎大学医学部教授、東京医科歯科大学大学院教授、人間総合科学大学教授を経て、東京医科歯科大学名誉教授。
嫌われ者の寄生虫・バイ菌だが、人に悪いことばかりしているわけではないと、現在も腸内細菌など腸内環境について研究を続けている。

私は、医学界では変な男として有名です。なぜなら、お腹の中にサナダムシを飼って、「キヨミちゃん」と名づけたりしているからです。今日は、免疫力を高めれば誰でも125歳まで生きられる、という話をしたいと思います。

今から50年ほど前、私はインドネシアのカリマンタン島へ疫学調査に行きました。現地の子どもたちは、ウンチが流れてくる川で平気で遊んでいて、調べてみると、住民たち全員がカイチュウという寄生虫にかかっていました。ところが、彼らはいたって健康なのです。
一方、私は三重県のド田舎の小学校に通っていたのですが、当時の私たちも全員がカイチュウにかかっていました。その頃はよくスギ林で遊んでいたにもかかわらず、誰一人として花粉症にはなりませんでした。
私はこの2つの経験から、カイチュウがアレルギーを抑えるのに役立つのではないか、とひらめいたのです。
 そして、実験を重ねた結果、カイチュウからアレルギーを抑える物質を見つけ出しました。このアレルギー抑制物質があることで、体内にアレルゲン(アレルギーの原因となる物質)が入ってきてもその情報がブロックされ、IgE抗体がつくられないため、アレルギーがおこらないのです。

アレルギーは、肥満細胞が破れ、ヒスタミンなどの化学物質が放出されることによってさまざまな症状を引き起こします。抗ヒスタミン剤によって症状を抑えることはできますが、一度アレルギーになると肥満細胞は破れ続けるため、根本的にはなかなか治りません。
 そこで私は、カイチュウからとり出したアレルギー抑制物質を使って、アレルギーを治す薬を作ろうと考えました。アトピーになったネズミに、遺伝子組み換えで作った薬を1回注射しただけで、アトピーは見事にきれいに治りました。ところが、アトピーは治ったものの、免疫のバランスを失って、がんになりやすい体質になることがわかったのです。
免疫には、がん細胞をやっつけるTh-1と、アレルギーを抑えるTh-2という2種類があります。この2つはシーソーに乗っているような状態で、ちょうどバランスがとれているのが健康な状態です。先ほどのネズミに注射した薬では、Th-2が大きくなった一方で、Th-1が小さくなってしまい、がんになりやすくなってしまったのです。

現代の病院は非常に清潔で、医学も進歩しているにもかかわらず、病気の種類も患者の数も増えています。近年急増しているがんやアレルギー、うつなどは、免疫のバランスが深く関係しており、こうした病気は薬では治せないのです。がんを治そうとするとアレルギーがおこる、アレルギーを治そうとするとがんが出てくる。ですから、こういうバランスの病気には、東洋医学的な発想、つまり、自然治癒力が必要なのです。

私たちは、この地球上に40億年生きています。ワクチンも抗生物質もない世の中で生きてこられたのは、自然治癒力のおかげです。ところが、私たちが作った文明社会は、自然治癒力を低下させるような方向へ誘導してきました。
私は、サナダムシのキヨミちゃんも自然治癒力の1つだと思っています。キヨミちゃんは、人間の腸の中でしか生きることができません。だから、宿主が元気でいてくれないと困るので、アレルギーやがんを抑えるなど、体にいい物質を出してくれているのです。
皮膚には皮膚常在菌がいて、酸性の膜を作って皮膚を守っています。女性の膣にはデーデルライン乳酸菌がいて、膣を清潔な状態に保っています。ビデで膣を洗いすぎると、雑菌が増えて膣炎をおこすほか、流産や早産の原因になるともいわれています。

現代人の腸内細菌は、戦前の3分の1まで減っています。その一番の原因は、文明社会が多量に生む活性酸素です。ICカードや電子レンジ、抗菌グッズ、添加物の入った食品、これらはみんな活性酸素のもとになっています。
活性酸素は免疫を低下させるため、細胞を老化させ、がん化し、寿命を短くします。また、活性酸素が原因の病気には、脳梗塞や心筋梗塞、糖尿病、高血圧、アルツハイマー、認知症など、全部で200種類くらいあります。

こうした活性酸素の害を減らすには、活性酸素を消す食品をとることが大切です。活性酸素を抑える物質に、フィトケミカルというものがあります。これは、植物だけがもつ抗酸化物質で、ブドウやトマトなどに含まれるポリフェノールをはじめ、植物の色や香り、辛味などの元となっている成分です。
 アメリカでは、「5 A DAY」というのを勧めています。これは、1日5皿分(350g)以上の野菜と200gの果物を食べましょう、というものです。これによってアメリカ人の野菜摂取量は大幅に増え、アメリカは世界に先駆けて全がんの発生が低下してきました。

食事の面でもう1つ、大切なことがあります。それは、50歳を過ぎたら精製した炭水化物をとり過ぎない、ということです。
私たちは、解糖エンジンとミトコンドリアエンジンという2つのエンジンを持っています。解糖エンジンというのは原始的なエンジンで、糖をエネルギーに動き、温度が低いところで活発化します。現代で解糖エンジンが必要となるのは、子どもをつくるときだけです。一方、ミトコンドリアエンジンは新しいエンジンで、酸素をエネルギーとし、温度が高いところで活発化します。
一般的には、50歳を過ぎるともう子どもをつくれないため、解糖エンジンはあまり必要ではなくなります。ところが、解糖エンジンのエネルギーとなる精製した白米や小麦をとり続けていると、ミトコンドリアエンジンが活性化しなくなって、動物は生理が終わったらすぐに死にますが、人間はそうではありません。人間は、年をとったらミトコンドリアエンジンだけで生きている生き物であり、動物とは根本的に違うのです。
100歳以上の元気な人たちを調べたところ、みんなステーキを週2回食べていて、菜食主義者は一人もいませんでした。先日お亡くなりになられた日野原重明先生も、週2回ステーキを召し上がっていました。
年をとると、コレステロールが必要になります。コレステロールはホルモンの材料となるもので、年をとると男性も女性もホルモンの分泌量が減ってしまうため、コレステロールをとって補う必要があるのです。

腸内細菌が減ってしまったもう1つの原因は、ストレスです。ストレスは、免疫力を大幅に低下させます。
 ストレスを解消するには、お酒を上手に使うとよいでしょう。飲める人であれば、毎日飲んだほうがいいのです。ただし、条件が2つあって、1つは好きな人と飲むこと、もう1つは1日2合(日本酒換算)までにすることです。飲める人が我慢して飲まないでいると、がん細胞が増えてしまいますが、2合以内であればがん細胞は増えません。ただし、飲みすぎると逆効果なので、3合以上飲む場合は休肝日が必要です。

そして、一番大事なのは、腸内細菌を増やすこと。腸内細菌は、病原体を排除したり、食物を消化したりするほか、ビタミンを合成する、幸せ物質のドーパミンやセロトニンをつくる、免疫力をつける、といった働きをします。
脳の中のセロトニンが少なくなると、うつ病になります。セロトニンは脳が作っていると思われていますが、実は腸が作っていて、セロトニンを合成するために必要なビタミンも腸内細菌が合成しています。ですから、腸内細菌を増やせば、セロトニンが増えて、うつ病の予防にもなるのです。また、免疫の70%は腸内細菌が作っているので、がんやアトピー、免疫疾患などは、腸内細菌を増やせば防げるのです。

日本人の腸内細菌が大幅に減少したのは、腸内細菌のエサである食物繊維の摂取量が減ったことも大きな原因です。腸内細菌が減ると、免疫が落ちてきます。あるときから、アトピーやぜんそく、花粉症、うつ病が急増したことも何か関係があるのではないかと思い、研究してきました。その結果、世界的にみても、食物繊維の摂取量が多いところは、自殺が少ないことがわかりました。
私たちの腸内細菌は、そのほとんどが私たちの身の回りにある菌です。赤ちゃんがなんでもなめたがるのは、本能的に腸内細菌を体内に入れようとしているからなのです。腸内細菌は、生後1年から1年半でだいたい決まってしまいます。ですから、その期間にあまりに菌の少ない環境で育ててしまうと、腸内細菌が少なくなってしまうのです。

免疫の70%は腸内細菌がつくり、残りの30%は内分泌・神経系の刺激(自然免疫力)がつくります。なので、以下のような生活習慣を心がけることが大切です。

<免疫力を高める方法>

  1. 野菜類、豆類、穀類などの植物性食品を中心とした手作りの食事をとる。香りがあったり、色のついた果物をとる
  2. オリゴ糖や食物繊維をとる(腸内細菌のエサとなる)
  3. 発酵食品(納豆、みそ、漬け物、ヨーグルトなど)をとる
  4. 保存料、防腐剤などの食品添加物の使用をできるだけ避ける
  1. 自然に親しむ
  2. 笑って楽しく生活する
  3. 運動する
  4. 規則正しい生活をする
  5. ポジティブな思考をする

がんや糖尿病は遺伝だと考えている方も多いかもしれませんが、実は、遺伝子で決まるのはたったの5%です。がんや心臓病、糖尿病などを起こしやすい遺伝子の数を調べてみると、100歳まで元気な人と、50歳で亡くなる人とでは、大きな差はありませんでした。つまり、元気で長生きできるのは遺伝ではなく、生活習慣によるものなのです。

私たち人間は、この世に生まれたら、いつかは必ず死を迎えます。そのカギを握っているのが、細胞の中にある「テロメア」という物質です。
生まれたときのテロメアの長さは1万塩基ですが、細胞が分裂するたびに短くなり、5000塩基になると死んでしまいます。そのため、テロメアは「寿命の回数券」とも呼ばれています。病気をしなければ、年平均50塩基短縮するので、
5000(塩基)÷50(塩基)=100(年)
となり、100歳まで元気で生きられることになります。ところが、大きな病気をするとテロメアは一気に短縮するため、寿命も短くなってしまいます。
 では、125歳まで元気に生きるにはどうしたらいいか。それは、1年間で50塩基短縮するのを、40塩基にすればいいのです。どうすればいいかというと、活性酸素を抑える色のついた野菜や果物をとり、精製した穀類を控えて、腸内細菌のエサである食物繊維を多くとる。そうすれば、テロメアの短縮を抑えられ、125歳まで元気に生きることができるのです。

先日亡くなられた日野原先生は、105歳でした。先生は若い時に結核で何回も入院されているので、それだけテロメアは使われているはずです。しかし、生活習慣にきちんと気を配ることで、105歳まで生きられました。食事が食べられなくなった際、医師が「腸に直接栄養を入れましょうか」と言ったら、先生はお断りになり、「自然に生きて、自然に死にたい」とおっしゃって、安らかにおやすみになったそうです。
 みなさんもぜひ、今日からテロメアを短くさせないような生活スタイルを心がけて、いつまでも元気でいらしてください。

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