平成21年7月14日(火)、東京ウィメンズプラザにおいて、第96回健康教室を開催しました。今回は、プロスポーツトレーナーの松井薫氏をお迎えして、「任天堂『Wii Fit』監修トレーナーに教わる健康法」と題し、日々の健康管理に有効な運動法や食事、自宅や会社で行えるストレッチなどについてご教授いただきました。なお、今回のストレッチのご紹介に際しては、ストレッチトレーナーの勝本昌希氏にアシスタントを務めていただきました。

●講師 松井 薫 氏

プロスポーツトレーナー。1971年神奈川県生まれ。小学校6年生のときに椎間板ヘルニアになり、自己流で腰に負担をかけない方法を試みながらプロを目指し、中学~大学と野球を行う。しかし、大学時代に肩を壊し、選手の道を断念。一方で、自己流の筋肉トレーニングと大学時代に学んだ運動・スポーツに関しての正しいエビデンスを活かし、パーソナルトレーナーとして活躍中。そんな活動が任天堂の目にとまり、「Wii Fit」の監修を務めることになる。全世界で500万本超の売上を記録している「Wii Fit」でも、さまざまな年齢層の方に受け入れられているストレッチは講演でも好評を博している。

●アシスタント 勝本 昌希 氏

ストレッチトレーナー。1976年生まれ。小学校3年生からサッカーを始め、東京第1部リーグのクラブチームに所属するが、ドクターストップにより18歳で引退。スポーツクラブでのスポーツトレーナーやマラソンランナー谷川真理選手の専属トレーナーを経て独立。多くの芸能人やプロ野球選手へのボディメークやストレッチ指導を行うほか、ボディケアサロンを経営し、さまざまなメディアでも活躍。

最近、「インナーマッスル」とか「アウターマッスル」という言葉を、よく耳にされることが多いと思います。しかし、解剖学的見地からすると、どちらもお互いに密接に関わっているので、どちらかがより重要ということはありません。インナーマッスルもアウターマッスルも、きちんと鍛えることが必要です。

40~50代になると、おなかがポッコリと出てきたり、お尻が下がってきたり、ということ目立ってきます。これは、筋力の低下が大きくなって、重量に逆らえなくなったためです。

しかし、筋肉を鍛えることによって、身体の衰えに対する重力の抵抗を養うことができます。筋力強化が特に必要なのは、抗重力筋(群)と呼ばれる筋肉です。具体的には、脊柱起立筋、大臀筋、腹直筋、大腿四頭筋、下腿三頭筋、腓腹筋、ヒラメ筋、前脛骨筋など。

特に高齢者では、下半身の筋肉から衰えていきます。これを廃用性筋萎縮といいます。加齢による筋力の低下と運動不足による抗重力筋の筋力の低下が重なれば、歩行困難になることもあり得ます。

さらに、下半身が衰えている人ほど、認知症やうつになりやすい傾向があるという研究結果も出ています。筋力が衰えて歩くことが億劫になると、家に閉じこもりがちになり、人と話をする機会が減ることで刺激を受けることも少なくなり、うつや認知症が進むということでしょう。うつや認知症予防は、まず下半身強化からといっても過言ではありません。40~60代では、特に下半身の筋力強化が重要になります。

自宅や会社でできるストレッチで筋肉を鍛えよう

では、『Wii Fit』でもおなじみのストレッチをご紹介します。まず、お互いに身体づくりができる、ペアで行えるストレッチです。【A】は、女性では大胸筋の下側が鍛えられますので、バストアップに効果的です。男性は肩の筋力強化となります。肩こりの予防改善も期待できます。ダイエット効果もあります。

【B】は背中の筋肉を引き締めるストレッチです。【C】はバランスを養うストレッチです。ゲーム感覚で楽しめるので、親子で行うのもよいでしょう。どのような戦略を使うかを考えることで、脳のトレーニングにもなります。

次は、会社で座ったまま行えるストレッチです。【D】は腸腰筋の強化です。足を上げるときや歩くときに使われる筋肉ですので、鍛えると歩行が楽になります。骨盤から上の腹筋にも関与していますので、メタボの進行抑制にも効果的です。【E】で使われるのは内転筋です。3分くらい続けていると、内ももがきつくなり、腰が真っ直ぐに伸びてきます。

私たちの普段の生活では、座っている時間が長くなっています。しかし、座っている時間が長いと、下半身がむくみやすくなります。座っているときに、お尻の片方の側に硬式テニスボールくらいの硬さと大きさのものを置いておくと、むくみの改善に効果があります。3分くらいしたら、もう片方のお尻の下に置き換えます。飛行機などに乗ったときには、エコノミークラス症候群の予防にもなります。

【F】はディップスという運動です。大胸筋・前胸筋・肩・二の腕の筋肉などが強化されます。若い方で、普段からかなり運動しているという男性の方にお勧めです。ゴルフをされている方なら、スイングが早くなって、飛距離が伸びるので、スコアアップが期待できます。

【A】
(1)向かい合って立ち、男女であれば、女性が両手で男性の手首を外側から握る。
(2)女性は腕を下に押し下げるようにし、男性はそれに負けないように上に押し上げる。
(3)半円を描くように腕を30~40回、上下させる。

【B】
(1)向かい合って立ち、お互いに左足を出す。
(2)お互いの右手を指相撲をするように、第二関節から曲げて組む。
(3)安定感を高めるために、お互いの左手を腕相撲をするようにひじから曲げて組む。
(4)お互いに腰を落として、右手を交互に引き合う。引っ張られるほうも少し力を入れて、抵抗を加える。

【C】
(1)お互いに向かい合って立ち、どちらか片方の足(同じ側、お互いに右足あるいはお互いに左足)を上げる。
(2)両手をひじから曲げて、前方に伸ばして押し合う。
(3)手だけで触れ合い、バランスを崩した方が負け。

【D】
(1)椅子に座って、ひじで机を押さえ、片足を上げてひざで30秒ほど机を押し上げる。
(2)足を変えて行う。
【E】
(1)椅子に座ったまま、ひざの辺りに名刺入れ・筆箱などを挟む。
(2)ひざの内側に力を入れて、挟んだものが落ちないように3分ほどキープする。
【F】
(1)同じ高さの机を間を空けて並べる
(2)それぞれの机の上に置いた腕を伸ばし、足を曲げて宙に浮かせる。
(3)腕の曲げ伸ばしを繰り返す。

身体にゆがみがあると血液の流れや代謝が悪くなる

身体にゆがみがあると血液の流れや代謝が悪くなる

次に、身体の左右の筋バランスをチェックしてみましょう。右手と左手を背中の後ろに回して、上下でつなぐことができますか? 上にする手を替えて行ってみましょう。手が触れなければ危険信号です。また、左右差がある場合は、骨格がどちらかに引っ張られてゆがんでいるということになります。

身体にゆがみがあると、血行が悪くなります。血管を川だと考えてみてください。蛇行の多い川ほど流れが遅く、大きな石やゴミがたまりやすいものです。身体にゆがみがあれば、血栓もできやすくなります。

また、身体のゆがみはダイエットの大敵でもあります。いくら食事に気をつけていても、ゆがみがあれば代謝が悪くなり、ダイエット効果が低くなるのです。メタボの改善には、食事や運動に気をつける前に、まずご自分の姿勢を見直していただきたいと思います。さらには、姿勢が悪いと、腰痛や肩こりの原因にもなります。

では、実際にストレッチを行って身体をほぐしてみましょう。

勝本昌希氏による肩をほぐすストレッチ

1.深呼吸
机から少し離れて座り、まず深呼吸を行います。息を吸いながら両手を上に上げ、吐きながら下に下ろします。次は、手を組んでもっと上に伸びてみましょう。息は止めないようにして、3回繰り返します。

勝本昌希氏による肩をほぐすストレッチ

2.肩を回す
前から8回、後ろから8回、肩を回します。次は、可動域を大きくして、ひじで自分の回りに大きく円を描くように、前から5回、後ろから5回、肩を回します。

3.肩の上げ下ろし
肩に力を入れ、耳に近づけるように上げます。1・2・3で維持し、力を抜いて肩を下ろします。3回続けて行い、3回目は1・2・3の間隔を広くします。

伸ばすだけでなく、動かすこともストレッチです。肩がこると、マッサージを受けたいと思う人は多いと思いますが、これらは自分でできるマッサージですので、ぜひお試しください。

カロリーよりも質で考えた食事を

ここからは食事の話をしたいと思います。日本では、カロリーダイエットが主流です。私は自分の身体がモデルにもなる職業なので、当然、食事にも気を配っていますが、カロリー計算はしていません。カロリー計算が面倒であることと、カロリーダイエットでは、今までの食事と極端に変えなくてはいけないことがその理由です。

その代わり、食事については“質”で考えています。例えば、私はコロモのついたものは食べません。見た目で油っぽいものは食べないようにしているのです。家での食事は、油を使わない調理法によるものです。煮物が多いのですが、焼き物のときは、テフロン加工の調理器具を使っています。
外食をするときは、料理によっては、油を薄くして焼いてもらったり、サラダならドレッシングはかけないように、お店の人にお願いすることもあります。

カロリーよりも質で考えた食事を


食べ物が身体の中に入ったら何になるかを考えることも大切です。例えば、同じカロリーのケーキと豆腐ハンバーグがあるとします。カロリーで考えるなら、どちらを食べても同じですが、実際には、豆腐ハンバーグを選ぶほうが太る確率は低いと考えられます。

なぜなら、ケーキはそのほとんどが糖質と脂質ですから、身体の中できちんと燃えないと、体脂肪となって蓄積されることになります。一方、豆腐ハンバーグにはたんぱく質が多く含まれていますので、身体の中では血や骨を作るアミノ酸になります。

その食品にどのような栄養素が含まれているか、ある程度の知識は必要ですが、このような考え方で食品を選ぶことは難しいことではありません。また、食事の質を極端に変える必要はないので、長続きします。

いつもの食事を、少しだけ変えることから始めればよいのです。例えば、ハンバーグを豆腐ハンバーグに替える。あるいは、普通のハンバーグが食べたいのなら、テフロン加工のフライパンで油を使わずに焼く、または、濃厚なソースではなく塩・コショウだけで味付けするといった具合です。ストレスもダイエットにはよくありませんので、無理なダイエットでストレスをためないことも大切です。

特定の食品だけを食べるダイエットの落とし穴

近年、特定の食品だけを食べるというダイエット法が増えています。最近ではバナナダイエットが話題になりました。食事を1つの食品だけにすると、栄養が偏ってカロリーが低くなるので、当然、体重は減少します。

ただし、このダイエット法を半永久的に続けることは難しいと思います。私たちは、穀物によってしか満腹感を感じられません。やがてはこのような食事に耐えられなくなるでしょう。しかし、このようなアンバランスな食事を止めてしまうと、必ずリバウンドが起こります。

街を歩いている若い女性を見ると、細いけれども、猫背や前肩、がに股の人が多いことに気がつきます。これは、無理なダイエットで筋肉がやせ細って、姿勢の保持ができなくなっている証拠です。バランスのよい食事と筋力アップが、効果的なダイエットやメタボ予防への近道であることを、知っていただきたいと思います。

質疑応答

Q1 猫背の改善はどうすればよいでしょうか?
A1 たすきがけが効果的です。文房具店に行けば、運動会用のたすきを売っています。コルセットなどをするよりも、たすきをするだけで、かなり姿勢が改善できます。

Q2 わき腹を引き締める方法はありますか?
A2 体側のストレッチをすると、可動域が広がるので効果的です。人は普段の生活では、横の動きが少ないものです。毎日必ず体側のストレッチをするようにすると、わき腹の筋肉が引き締まります。

Q3 足を痛めていてもできる筋力強化法を教えてください。
A3 少しひざを曲げる程度のクオータースクワットがよいでしょう。バスタオルなどを丸めて、ひざの少し上にはさみます。これは内転筋を使うためです。そして、ひざを少し曲げるのですが、スキーをしているように、右と左に傾けます。関節を痛めないように、右・真中・左・真中と、必ず一度真中に戻してください。これで、痛みの改善と筋力強化が行えます。

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