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第115回健康教室 ストレスチェック制度の導入・実施のポイント〜“義務化”を活性化のチャンスとして活かす〜

 平成27年11月10日(火)〜11日(水)、直営保養所「金谷城スポーツセンター」において、第115回健康教室を開催しました。今回は宿泊型で、1日目はTJKメンタルヘルスセンター所長の山ア友丈先生を講師にお招きし、「ストレスチェック制度の導入・実施のポイント」についてご講演いただきました。2日目はTJKの保健師による「TJKデータヘルス計画の取り組み」についての講演につづき、再び山ア先生より『「健康経営」にどう向き合うか』というテーマでご講演いただきました。その様子をレポートします。

第一部

ストレスチェック制度の導入・実施のポイント
〜“義務化”を活性化のチャンスとして活かす〜

講師 講師 山ア友丈 氏
日本大学大学院卒業、順天堂大学精神科勤務を経て87年より現職。現在EAP(従業員支援プログラム)を中心に多くの企業のメンタルヘルス支援の指導、社内研修、講演に多忙を極める。豊かな経験をふまえた実践的で明快な指導で好評を博している。アメリカニューポート大学心理学部助教授。マインメンタルヘルス研究所所長。TJKメンタルヘルスセンター所長。
産業精神保健学会認定産業精神保健専門職。臨床心理士。

 

「気分障害」の患者が圧倒的に多い

 WHOの発表(2012年10月9日)によると、うつ病の人は世界で3億5000万人いるといわれており、これは全世界の人口の5%にあたります。日本では、うつ病の人は120万人と推定され、依然として減っていないというのが現状です。
 私がメンタルヘルスに取り組み始めた30年ほど前は、「早期発見・早期治療」が基本でした。しかしその後、さまざまな変遷があり、今は「予防」に重点が置かれています。いかにして病気をしない環境をつくるか。これがまさに、健康経営の原点となっています。
 図(1)は、1996年を基準に心の病の患者数の増減比率を表わしたものです。これを見てもわかるとおり、うつ病をはじめとする「気分障害」の患者が圧倒的に多く、とくに2000年以降、大幅に増加しています。
 また、自殺者数は1998年以降、14年間連続で3万人を超しています[図(2)]。98年に急増していますが、97年から98年にかけての社会状況をみてみると、山一證券や三洋証券の破たんなどがあり、これらによる金融不安が背景にあることが推測できます。
 かつての日本は自殺天国といわれ、先進国の中で一番自殺者が多い国でした。現在では7番目にまで落ちてはいるものの、事故よりも自殺で亡くなる人のほうが多い国というのは、いまだに日本だけです。


図(1) 「心の病」患者数の推移
 
図(2) 自殺者数の推移
 


中小事業所も「心の健康対策」を重視する傾向に

 このように心の病が深刻な問題となっている今、どの程度の企業が心の健康対策に取り組んでいるのでしょうか。その割合を事業所の規模で分け、2007年と2012年で比較したのが図(3)です。


図(3) 心の健康対策に取り組んでいる事業所の割合(全国 %)

 やはり、事業所の規模が大きいほど取り組んでいる率は高いのですが、この5年間で、中小事業所の取り組み率が大幅に向上していることがわかります。やはり、規模の小さい事業所ほど、従業員一人ひとりのパフォーマンスが重要となるので、メンタル的な問題への取り組みをより真剣に考えるようになってきているのでしょう。
 しかし、その取り組みの内容をみてみると、労働者あるいは管理監督者への教育研修・情報提供、社内のメンタルヘルス窓口の設置、といったものが主で、労働者のストレス状況調査をやっているところはまだまだ少ないのが現状です[図(4)]。
 私は、メンタルヘルスというのは「投資」だと思っています。メンタルヘルスに取り組めば、必ずリターンがある。だから、小規模の事業所ほどしっかりと投資をしていただきたいのです。


図(4) 心の健康対策の取り組み内容(全国 %)
 


多様化する職場のメンタルリスク要因

 職場のメンタルリスクを具体的にあげると、パワハラをはじめとする各種ハラスメント、業務負荷の増大、退職勧奨、雇用形態の多様化、障害者の雇用など、さまざまな領域にわたり、多様な問題が広がっています。それらに対し、それぞれのレベルで、適切なリスク管理や予防が必要となります。また、組織内ではコミュニケーションの減少・低下、強まる分断による孤立感といったことが問題視されています。そのため、若い世代にプレッシャーがかかりやすくなっており、それが離職率増加につながる一因とも考えられます。
 メンタルトラブルにかかわる企業のリスクは、経済的リスクと人的リスクに大きく分けられます[図(5)]。このように、経済的デメリットとマンパワーの低下が相乗的に組織パフォーマンスに影響を与え、これは企業にとって大きなダメージとなります。


図(5) メンタルトラブルにかかわる企業のリスク
 


深刻化するメンタルトラブル。現状打破を目指し、「ストレスチェック制度」実施へ

 また、労災請求件数の推移[図(6)]をみてみると、脳・心臓疾患が減少しているのに対し、平成20年ごろからは精神障害が急増し、今では精神障害による労災請求が圧倒的に多くなっています。
 さらに、うつ病で労災が認められるケースが増えており、自殺以外での労災支給決定が大幅に増えています[図(7)]。


図(6) 労災「請求」件数の推移(全国)
 


図(7) 労災「支給決定」件数の推移(全国)
 
 今までは、うつ病の自殺における労災認定、安全配慮義務違反による損害賠償訴訟が中心でした。ところが近年は、病気休職が満了して退職後、病気の労災認定を求めて訴訟を起こすケースが増加しています。認定されれば、長期にわたる休業補償や慰謝料の支払いが発生する可能性があるのです[図(8)]。
 安全配慮義務違反の時効は10年です。つまり、3年くらいで病気休職が満了して退職し、その後、病気が治らないまま自宅で療養していたとしたら、まだ訴える権利がある、ということです。


図(8) 新たに広がる労災・訴訟のリスク
 
 図(9)は、在職中の精神障害の労災認定に関する裁判の一例です。メンタルトラブルにより、これだけの大きなリスクが発生するということです。


図(9) 在職中の精神障害の労災認定に関する裁判例
 
 メンタルヘルスの不調による休職者の比率を企業単位でみたものが、図(10)です。年代では20〜30歳代が圧倒的に多く、情報通信の業務に携わり、週労時間50時間以上の人の比率が高くなっています。このことからも、過重労働はやはり注意しなければいけない、ということがわかります。


図(10) 企業単位でみたメンタルヘルス不調による休職者の比率
 
出典:「企業における従業員のメンタルヘルスの状況と企業規模 −企業パネルデータを用いた検証−」
    独立行政法人経済産業研究所(2014)


 以上のような状況を踏まえ、さらなる過労死対策が推進されるようになり、「心理的負荷の軽減」への注目が強まってきました。そして考え出されたのが、改正労働安全衛生法(平成27年12月1日施行)であり、これに付随して、「ストレスチェック」が実施されることとなりました。


ストレスチェック制度に関するQ&A

 ここでは、あらたに導入された「ストレスチェック制度」について、みなさんが抱える素朴な疑問についてお答えします。

Q1.ストレスチェック制度とは何ですか?
A1-1. 「ストレスチェック制度」は法律で事業者に実施が義務づけられたものです。
 労働者の健康や安全を守るための法律「労働安全衛生法」の改正により、あらたに2015年12月1日から導入が決定されたものです(労働者数50人以上の事業場が対象。50人未満の事業場は当分の間は努力義務)。

A1-2. 「ストレスチェック制度」の第一の目的は労働者の健康維持です。
 チェックを受けた一人ひとりが、自分のストレス状況に気づき、ストレスによる心身の不調を予防し、健康に働き、生活し続けることができるよう、自分の生活や環境を調整するために役立てるものです。

A1-3. チェックの個人結果はプライバシー情報として守られます。
 ストレスチェックの結果は、慎重に取り扱われ保護されます。体の健康診断の結果が会社に報告される場合があるのと異なり、ストレスチェックの個人結果は、本人が特別に承諾しない限り、会社に知られることはありません。

A1-4. 組織ごとに集計した数字は、集団分析として職場改善にも役立てられます。
 一方、厚生労働省では、ストレスチェックの結果を個人が特定できないように集計した組織全体の数値によって集団分析を行い、職場のストレス状況を把握し、改善に役立てることも求めています。正確な職場状況の把握のためにも、職場のメンバーにもれなくチェックを受けていただくことが大切です。


Q2.ストレスチェックを受けると何がわかるのですか?
A2-1. あなたの現在のストレス状態を統計的な基準に照らし合わせて評価します。
 このストレスチェックに用いられている『職業性ストレス簡易調査票』は、厚生労働省が推奨しているもので、全国の膨大な調査データをもとに開発された信頼性の高い調査票です。「職場のストレス要因」「心身のストレス反応」「周囲のサポート要因」の3領域で、あなたの回答状況が全体の中でどの程度のところに位置するかを数値やグラフでお知らせします。

A2-2. リスクが高い状態にある方には「高ストレス状態」とお知らせします。
 統計的にみて心身の不調に陥るリスクが高い状態にあると評価される人は、「高ストレス状態」と結果に表示されます。あわせて生活改善のための情報も提供されます。このチェックの結果を足掛かりに、自分の仕事や生活の状況を振り返り、ストレスの緩和、改善に取り組むためにお役立てください。

A2-3. 自分の状態への気づきや振り返りに役立ちます。
 高ストレスに該当しなかった方でも、結果のプロフィールチャートなどの項目を細かく見ていただくことにより、自分のストレス管理上のポイントを知る情報を得ることができます。ストレスの程度と合わせて、生活改善、セルフマネジメントの向上にお役立ていただけます。


Q3.どのように実施されるのですか?
A. 制度全体の決定、計画や管理は会社が行いますが、ストレスチェックの実施や結果の管理など個人結果に触れる部分は、医師、看護師など定められた資格を持つ人が「実施者」となり、携わります。また、チェックを受けた人に不利益が及ばないよう、人事権を持つ人は実施に関われない仕組みとなっています[図(11)参照]。


図(11) ストレスチェックの実施体制
 


Q4.「高ストレス状態」の場合、どうなるのですか?
A. 「高ストレス状態」が、直ちに心身の不調や病気の状態にあることを意味するわけではありません。しかし統計的に、この結果に該当する人は不調に至るリスクが高いということが知られていますので、実感はなくてもストレスを溜め込んでいる、という可能性もあります。
 この結果をもとに、自分の仕事や生活の状況をよく振り返り、ストレスの緩和、改善に取り組むことをお勧めします。
 高ストレス状態にあり、面接指導を受けることが望ましいと実施者により判定された人は、自ら事業者に申し出をすることによって医師による面接指導を受けることができます。指導医は、面接の結果、必要な環境改善についての意見を事業者へ報告し、事業者はその意見に基づいて就労環境の改善などに取り組むことが義務づけられています。
 また、医師による面接指導以外に、カウンセラー等の相談窓口を利用することも可能です。この場合は、事業者に申し出る必要はありませんから、ストレスチェックの結果が事業者に伝わることがない反面、本制度に基づく就労環境の改善を求める場合は、改めて医師による面接指導を受ける必要があります。


Q5.結果が評価や処遇に影響することはありませんか?
A. このストレスチェックはあくまでも、労働者の健康の維持を主眼とし、個人のストレスへの気づき、セルフケアの向上を目的としたものです。
 そのため、事業者が本人の承諾なく個人結果を閲覧・取得したり、この制度の実施運用に関連して以下のような本人の不利益につながる行為を行うことは禁じられています。どうぞ安心してご活用ください。


事業者に禁止されていること

  • × ストレスチェックの受検を強要・命令したり、受検しないことを理由に不利益な扱いをすること。
  • × ストレスチェックの結果を本人の承諾なく取得すること。また結果の開示を強要・命令したり、承諾しないことを理由に不利益な扱いをすること。
  • × 高ストレス該当者に、医師による面接指導を受けるよう強要したり、面接指導の申し出を行なわないことを理由に不利益な扱いをすること。
  • × ストレスチェックの結果を理由に不利益な扱いをすること。

図(12) ストレスチェック制度の流れ


「ストレスチェック制度」を活かすポイント

 自身のストレス状況への気づきを促し、職場の環境改善につなげるためにも、ストレスチェックはぜひ、全従業員の方にやっていただきたいと思います。そのためには、制度の位置づけ、目的、仕組みなどを対象となる従業員に周知し、理解を図ることが重要です。それが受検率、ならびに高ストレス者の面接指導率を上げ、所期の成果を確保することにつながります。
 また、自身のストレス状況に目を向けるこのタイミングに合わせて、事業者には、セルフケアやストレスマネジメントに関する情報提供、スキルアップ教育などを連携して提供していただきたいと思います。そうすることにより、セルフケア、タフネスの水準向上につなげることができます。
 さらに、組織のストレス状況を客観的に把握することは、職場改善、組織活性化策への貴重な基礎情報となります。ストレスチェックを通じて、問題状況を把握し、研修プランなどの対策づくりに活用することが期待されます。
 みなさんが健全に仕事ができるような、良い職場の環境づくりのために、ストレスチェック制度を活用していただけたらと思います。

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