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第111回健康教室 ピンピンコロリの生活術

平成26年7月23日(水)、TJKプラザにおいて、第111回健康教室を開催しました。今回は、NPO法人れんげメディカルグループ理事長の鷹野和美氏を講師にお迎えしました。ただ長生きするだけでなく、亡くなる直前まで元気に活動する、そんな健康長寿を全うする生き方を長野県の実践例などを挙げながらご紹介いただきました。その様子をレポートします。

講師 鷹野 和美 氏●鷹野 和美 氏(NPO法人 れんげメディカルグループ 理事長)

 信州大学大学院医学研究科博士課程修了。諏訪中央病院健康相談室、広島県立保健福祉大学(現県立広島大学)助教授、東京大学大学院医学系研究科客員研究員、長野大学社会福祉学部教授、京都創成大学・京都短期大学学長等を経て、現在は財団法人国際生涯学習研究財団理事、地域包括ケアとチーム医療を実践するれんげメディカル・グループ理事長を兼任している。
 主な著書に『地域医療福祉システムの構築』『チームケア論−医療と福祉の統合サービスを目指して』『袋小路の向こうは青空−認知症と生きていくためのヒント』がある。


「環境や食べ物が長生きの秘訣」というのは大きな間違い

 日本は、世界有数の長寿国の一つとして知られていますが、寿命が長いということは、それだけ病気になる人や障害を持つ人もふえることになります。
 そうした状況の中で、予防活動で有名なのが信州の茅野市です。茅野市は、日本で一番医療費が安く、老人医療費だけで比べれば北海道の3分の1という断トツの安さ。なおかつ、平均寿命から要介護期間を引いた健康寿命は世界一です。つまり、多くの人が病院にかからずに長生きしているということで、「信州の奇跡」「信州モデル」ともいわれています。
 なぜ、信州の人がこんなに長生きで、医療費が安いのか。その理由として、気候がいいから、水がきれいだから、体にいいものを食べているからなど諸説ありますが、これらはまったく当てはまりません。
 平均寿命は、2011年までは女性は沖縄、男性は信州が1位でしたが、2012年には男女ともに信州が1位になりました。
 今でこそこれほどまでに長寿になった信州ですが、昭和40年代には平均寿命は30位台でした。つまり、有史以来、信州や沖縄の人が長生きだったのであれば、従来いわれてきた説が当てはまりますが、そうではないのです。沖縄などは、女性は今も長寿ですが、男性の平均寿命は2013年には30位にまで順位を落としています。このことからも、環境や食生活だけが長寿の秘訣ではないことがわかります。


元気な人に「健康のために」というフレーズは響かない

  東京都が行った調査によると、国民が抱える将来への不安には次のようなものがあります。

国民の考える「将来の不安」(複数回答)

自分の健康・病気 59.0%
家族の健康・病気 54.5%
老後の生活 49.4%
今後の収入 46.6%
税金や保険料等 37.2%
親などの介護 31.8%

※東京都生活文化スポーツ局/2008年都民生活に関する世論調査

 なかでも、介護の問題は深刻です。認知症と脳血管疾患による寝たきりの方々は、在宅介護が難しく、施設に移っている方が多くいます。しかし、要介護3以上でなければ施設には入れないので、該当しない場合は、家族がなんとかしなければなりません。
 覚えておいていただきたいのは、加齢や脳血管疾患による認知症、多発性脳こうそくなどは予防ができる、ということです。
 認知症を予防するためには、禁煙、運動、減塩が基本になります。しかし、「認知症になりたくなかったら、タバコをやめて、塩を減らして、運動しましょう」といっても、そんなことはわかりきっているため、ほとんどの人は実行しません。今現在、健康な人に対して、「健康のために」という呼びかけは効果がないのです。
 重要なのは、そのような人たちをいかに“その気にさせるか”です。


元気で長生き “ピンピンコロリ”

 信州は、平均寿命、健康寿命ともに世界一です。つまり、ピンピンと生きてコロリと死んでいくということで、「ピンピンコロリ=PPK」と呼んでいます。
 WHOでは、単に病気やけが、虚弱ではないというだけでなく、「社会的、文化的にも完全な状態を健康という」と定義しています。日本人の要介護期間が一般的に5〜6年であるのに対し、信州モデルの場合は1年です。この差は非常に大きく、だから介護保険料も安いのです。
 もう一つ大きなポイントは、病院とは無縁のところで長生きしている、ということです。茅野市では、バブルが崩壊してから、これまでに2回ほど国保税を値下げしています。これは、奇跡です。
 みんなでがんばって塩を減らし、揚げ物を減らし、運動することで、余った医療費が個々の家庭の財布に戻ってきた、というわけです。
 そういう実体験をしているからこそ、ますますやる気になって、さらに長生きになるのです。いかにして、正しい知識を植えつけ、行動変容を起こさせるか、ということが肝心なのです。


予防より安いものはない

 たとえば、インフルエンザにかかった場合の医療費を計算してみましょう。初診料、検査料、薬剤費などを合計すると、10,290円かかります。このうち3割の3,090円を患者自身が負担し、残りの7割にあたる7,200円を保険者が負担することになります。
 一方、事前に予防接種を受けた場合を想定すると、予防接種の費用2,000円を保険者が負担したとしても、5,200円は得をすることになり、患者の負担は0円となります。
 このように、保険給付費が大幅に浮くことに加え、機会損失も防げるので、企業にとっても非常に大きなメリットになります。
 日本の総医療費は約35兆円で、このうち、がんが2.2兆円、脳卒中が1.8兆円、高血圧が1.9兆円を占めています。
 また、糖尿病になった場合の年間医療費を概算すると、食事と運動だけで改善できる段階であれば15万円、投薬1品が加わると32万円となります。ところが、インスリン・投薬・透析が必要になると、その額は一気に500万円を超えてしまいます。
 がんはやむを得ないとしても、脳卒中や高血圧、糖尿病は予防することが可能です。早い段階で予防に努めれば、こうした莫大な医療費を削減することができるのです。
 とはいえ、先ほども言ったとおり、元気な人に対して「健康のため」という動機づけはまったく効き目がありません。では、どうしたらよいのでしょうか?


予防活動により大きなメリットを生んだ2つの実例

 ここで、予防活動に成功した例を見てみましょう。一つは、元トップアスリートだった人が市長になった自治体の場合です。この市長は、自らの体験から運動の大切さを十分理解しているため、市民に対して運動教室への参加を促しました。その際も、国保の財政については一切触れることなく、「みんなで楽しみながら運動をして、いつまでも元気に暮らしましょう」と呼びかけたのです。その結果、運動教室への参加者と非参加者とでは、医療費に大幅な差が出ました。そうした成果を目の当たりにすることで、運動教室に参加する市民がどんどんふえていきました。
 もう一つは、北海道のある町で、3次予防に力を入れている自治体の例です。ここでは、要介護5の高齢者3人にプールと筋トレを行わせ、自力で歩行できるまでに改善させました。その結果、要介護3に再認定され、介護給付費が大幅に削減されました。
 このように、運動への取り組みは、受給者が健康や日常生活を取り戻せるだけでなく、家族の介護負担、さらには自治体の費用負担の軽減にもつながるわけです。


信州モデルの最高の働き手は“普通のおばちゃんたち”

 信州の茅野市では、1980年代から地域包括ケアシステムに取り組んできました。かつての茅野市は、塩分の摂取量も多く、脳卒中の多発地域でした。それを改善するにあたり、中心となって活動してくれたのが、保健補導員の人たちでした。
 普通のおばちゃんたちを2年間徹底して教育し、保健補導員になってもらいました。そして、その知識を市民に広め、検診や健康的な生活へと補導してもらったのです。
 ここでポイントとなるのは、医療の専門家ではなく、「普通のおばちゃんたち」であるということです。専門家の話というのは、得てして胡散臭いもので、遠い他人事のように聞こえてしまいがちです。一方、身近な存在である仲間の話(=ピアカウンセリング)は耳を傾けやすく、そのため行動にも移しやすいのです。
 この保健補導員の人たちが、1軒1軒家を回ったり、公民館に住民を集めたりして、健康的に暮らすためのノウハウを地道に伝えていきました。こうして、正しい知識を普及し、住民をその気にさせることに成功したことで、「信州モデル」はできあがったのです。


予防大国、デンマークに学ぶ

 世界的には、デンマークの取り組みが非常に参考になります。デンマークは、福祉大国であると同時に、予防大国でもあります。予防が浸透しているため、福祉を必要とする人が少なく、その結果、一人に対する福祉が充実しているのです。
 デンマークに古くから伝わる格言で、「老人には坂と畑を与えよ」というものがあります。坂道を上り下りすることは、腸腰筋と大腰筋を鍛えるうえで、非常に有効です。腸腰筋は、足を上げるための筋肉。一方、大腰筋は上半身と下半身をつないで、転倒を予防する筋肉です。老人にとって、転倒は寝たきりにつながるため、絶対に避けなければなりません。そのためにも、この2つの筋肉を鍛えることは非常に重要なのです。人類史上最速の陸上選手、ウサイン・ボルトが坂道を走るトレーニングを取り入れていたことからも、その有効性がわかります。
 デンマークでは、寝たきりをつくらないための取り組みが、幼稚園のころから始まっています。園児は、ただ泣いているだけでは、おむつを替えてもらえません。おむつのストッカーから自分のサイズのものを持ってきて、おむつ台に上がって初めて、保母さんがおむつを替えてくれます。つまり、こんなに幼いころからすでに自立して生きることを教えられているのです。
 また、介護施設では、こんな光景も目にしました。脳こうそくにより半身が不自由になっている人が、動くほうの足に3sの重りをつけて、トレーニングをしていました。死ぬまで自分の行きたいところに自分の足で行けるようにするために、動くほうの足を鍛えていたのです。つまり、その方の人権と尊厳を守ることをなによりも重視しているわけです。


自分の基礎代謝量・1日の必要エネルギー量を計算してみよう

 健康的に暮らすためには、食事・運動・明るく生きる、という3つがポイントになります。
 私たちの体は、基礎代謝量が70%を占め、それ以外には、生活活動代謝量が20%、食事誘導性体熱産生(食事により体温が上がる)が10%となっています。そして、基礎代謝量のうち、筋肉が38%ともっとも多いため、筋肉の質量をふやせば、基礎代謝量を高めることができます。体のなかで、一番大きな筋肉は大腿四頭筋であり、これを鍛えるには歩くことが有効です。歩くことが大切だ、といわれるのはそのためです。
 基礎代謝量は19歳をピークに徐々に減少し、40歳を過ぎると急激に低下するため、運動によって筋肉をつけ、基礎代謝量を高めることが重要なのです。

 体重を管理するためには、まず、自分の基礎代謝量を知ることが大切です。基礎代謝量は、以下の計算式で求めることができます。

<基礎代謝の計算式>
男性 66.5+(体重s×13.8)+(身長p×5.0)−(年齢×6.8)
女性 665+(体重s×9.6)+(身長p×1.9)−(年齢×4.7)

 上記で求めた基礎代謝に生活強度をかけると、現在の体重を維持するために必要なエネルギー量がわかります。

<生活強度の目安>
・ デスクワーク、電車通勤、運動なし=1.3
・ 立ち仕事、日常的に適度な運動を行っている=1.6
・ 子育て中の主婦=1.7

例)身長171p、体重73s、年齢57歳、立ち仕事の場合
66.5+(73s×13.8)+(171p×5.0)−(57×6.8)=1541.3kcal(基礎代謝)
1541.3kcal(基礎代謝)×生活強度1.6=2466.08kcal(現体重維持エネルギー量)

 また、不安を感じたり、クヨクヨしたりすると、体内でコルチゾールという物質がつくられ、NK細胞を攻撃します。NK細胞とは、体内に入った悪いものを最初に殺してくれる細胞なので、これが攻撃されると、免疫力の低下につながります。不安なときにお腹が痛くなったり、クヨクヨしたときに風邪をひきやすくなったりするのは、そのためです。
 このように、バランスのよい食事や適度な運動に加え、精神面をコントロールすることも、健康維持のためには大切なのです。


自分を「その気にさせる」目標を持とう!

もう一度まとめると、健康的な生活を送るためには

  1. 自分の基礎代謝量を知り、規則正しくバランスのよい食事をとる
  2. 有酸素運動を30分以上継続して実施する
  3. 持久力をつけるための「赤筋」を増加させるエクササイズをする
  4. ストレスを楽しみ、上手に気分転換をする

ということが大切です。

 筋トレをする際は、やりすぎ(過用症候群)や間違ったやり方(誤用症候群)をすることのないように気をつけてください。筋トレをすると、筋繊維や毛細血管を壊すことになるので、それを修復させる時間が必要です。週2〜3回にとどめるか、毎日やる場合には、上半身と下半身、前面と背面で分けるなど、やり方を工夫してください。
 また、心身のコンディションを良い状態に保つことも大切です。運動をする際も、楽しみながら体を動かすことを心がけましょう。無理して歯を食いしばりながらやる運動よりも、ウオーキングのように楽しみながらできる運動がおすすめです。
 有酸素運動は、その効果がさらに注目されています。Sirt1(サーチュインワン)という長寿遺伝子は、有酸素運動をしたときしか働きません。筋肉細胞でエネルギーを作り出すミトコンドリアも、有酸素運動により活性化することがわかっています。さらに、代謝改善ホルモンといわれるアディポネクチンも、有酸素運動により分泌が促され、代謝を高めてくれます。
 有酸素運動を継続して行い、筋肉をつけると同時に、筋年齢を若く保つことが大切です。楽しみながら続けるためにも、一緒にできる仲間を見つけると、さらによいでしょう。
 また、モチベーションを上げるためには、意識の持ち方もとても重要です。単に、義務感だけで運動を続けようとするのは、非常に困難です。それよりも、「かっこよく・きれいになる」「スーツの似合う体をつくる」「終わったあとにおいしいビールを飲む」といった目標を掲げるだけで、俄然やる気が出てくるはずです。運動を続けていれば、確実に体が変わってくるので、ますます楽しくなり、ここまでくるともうやめられなくなります。
 「信州モデル」で実証されたように、さまざまな病気の予防は可能であり、行動を変えれば、誰もが健康的な生活を手に入れることができます。これを機会に、ぜひ今日から実践してみてください。

お問い合わせ先:東京都情報サービス産業健康保険組合 健康管理グループ TEL 03-3360-5951
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